流通業界のガリバー、セブン&アイ・ホールディングスが、多角化路線の見直しに動き始めた。これまでは、外部から何度コングロマリットディスカウントを指摘されても「どこ吹く風」だった。しかし、表明済みのそごう・西武の売却検討に限らず、抜本的なポートフォリオ改革を行わねばならないタイミングに、ついに差し掛かった。特集『セブン解体』(全6回)の#2では、“セブン解体”を後押ししている二つの「変化の衝撃」について明かす。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
そごう・西武の売却は
“セブン解体”の序章にすぎない
セブン&アイ・ホールディングスが、長年の懸案だったそごう・西武の売却にようやく動いている。
本特集#1『セブン&アイのそごう・西武売却が八方ふさがり、買い手ヨドバシの「無理難題」に労組猛反発』で述べた通り、売却交渉は難航を極めているもようだ。
だが、そごう・西武は2022年2月期までの10年間で7度も最終赤字に陥っており、セブン&アイ傘下での業績改善が不可能であることは明白だ。今回の交渉の成否がどうであれ、セブン&アイは売却先を見つけ出さなければならない。
そしてそごう・西武の売却は、これから本格化する“セブン解体”の序章となるはずだ。なぜならセブン&アイは今、事業ポートフォリオの再構築を強烈に迫られている。百貨店以外の事業についても、売却を含めて真剣に検討せざるを得ない状況にあるといっていい。
セブン&アイは、言わずと知れた日本流通業界のガリバーだ。歴史は1946年、名誉会長の伊藤雅俊氏が東京・北千住で洋品店、羊華堂を家族と再開させたところから始まる。
その後、外食やコンビニエンスストア、金融、百貨店、専門店などに事業範囲を拡大。22年2月期にはイオンを営業収益(売上高に相当)で11年ぶりに逆転し、小売業“トップ”の座を奪還した。
ただし、営業利益は長らく、鈴木敏文名誉顧問が乗り出したコンビニ事業に依存してきた。実際、22年2月期のグループ全体の営業利益に占めるコンビニ事業の割合は、実に98.9%に上る。そごう・西武や、デニーズを展開するセブン&アイ・フードシステムズなどが出す営業赤字を、ひたすら打ち返している形だ。
こうした事情に株式市場が気付かないわけはなく、これまでにも物言う株主(アクティビスト)の米サード・ポイントなどが業績不振事業のリストラを求めてきた。
それでもセブン&アイは少し前まで、それら要求を受け流し続け、主要事業の切り出しに動くことはなかった。
「どうせ、セブン&アイは変わらない。『期待しなければ失望もしない』じゃないが、長くセブン&アイをウオッチしている関係者は、まさにそんな感覚に陥っていた」。ある市場関係者は、映画「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」のヒロインが吐いた名言を用いて、セブン&アイ周辺ではびこっていた諦念について語る。
しかし、だ。セブン&アイの置かれた環境は変わった。
セブン解体は、もはや必然だ。次ページでは、セブン&アイのポートフォリオ再構築を後押しする「二つの変化の衝撃」について明かす。