後悔をバネにして
幸せになるための3つのカギ

――後悔の念をテコにして、より良い人生を送るためのカギは何でしょう? あなたの著書には、「自分の感情をはぐらかすな。感情に浸ってもいけない。将来の行動を促進する触媒として、自分の感情を利用せよ」と書かれています。

ピンク カギは3つ。まず、自分自身を軽蔑するのではなく、優しさを持って自分に接することだ。人は間違いを犯すと、自分に手厳しくなりがちだ。「なんという愚か者だ!」と、自分を責めてしまう。だが、そうしたやり方が効果的だというエビデンスは、ほとんど挙がっていない。

 私たちは過ちを認め、後悔は、人間なら誰もが経験するものだという認識を持つべきだ。そして、過ちは人生の一時のことにすぎず、人生全体の評価につながるものではないという点も忘れてはならない。これが1つ目のカギだ。言ってみれば、自分の心の中で後悔にどう対処すべきか、という問題だ。

 2つ目のカギは、後悔を外に吐き出すこと。誰かに話したり、書き出したりすることで、後悔というネガティブな感情を言葉に変換し、恐怖感を和らげることも非常に重要だ。一日にわずか15分でも後悔を書き出すだけで効果が上がる、というエビデンスもある。

 そして、最後のカギが、後悔から教訓を引き出すことだ。自分に優しく接しただけで終わってはいけない。後悔から何を学び、今後の人生に生かしていくか、だ。扱い方さえ間違えなければ、後悔という感情は人生の役に立ちうる。

――あなたの著書にもあるとおり、「セルフ・ディスクロージャー」と「セルフ・ディスタンシング」、「セルフ・コンパッション」がカギですよね。

ピンク セルフ・ディスクロージャー、つまり自己開示の相手は、配偶者や友人、チームメイトなど、誰でもいい。ただ、人に後悔を話すことに気まずさを感じる場合は、一日15分間書き出すという行為を3日間続けるだけでいい。後悔という抽象的な感情を話し言葉や文字に変換し、分析することで、恐れる気持ちが和らぐ。

「後悔などを人に打ち明けたら、もうあまり相手にされなくなるのではないか」と、心配する人もいるだろう。そうした懸念にも一理あるが、逆に「よくぞ話してくれた!」と、その勇気と正直さを称賛され、人からもっと慕われるようになるという一面もある。自己開示は非常に重要なステップだ。

 セルフ・ディスタンシング、つまり、自分自身から距離を置いて客観的に眺めることも、後悔に教訓を見いだすための方法だ。人間は本来、問題解決にたけているが、自分のこととなると、距離が近すぎるため、うまく解決できない。だから、一歩引いて考えてみる。何かを後悔し、どうしていいかわからないとき、「これが自分の親友だったら、何とアドバイスするだろうか」と思いを巡らせるのが、セルフ・ディスタンシングの効果的なやり方だ。

 次にセルフ・コンパッション、つまり、自分自身を受け入れ、大切にすることだが、米テキサス大学オースン校の心理学者、クリスティン・ネフ准教授がセルフ・コンパッション研究の草分けだ。彼女の研究によると、自分自身を受け入れ、大切にすることが効果的な自分への接し方だという。

 自分の過ちに対して言い訳をしたり、葬り去ろうとしたりするのではなく、過ちを認めつつ、「人には後悔が付きものだ。時には大失敗することもあるが、それで人生のすべてが決まるわけではない」と考えることが大切だ。そうすれば、後悔は、より健全で幸せな人生を送るためのポジティブな原動力になりうる。

 米国人のように、過ちを犯しても、自分が常に「素晴らしい、イケてる」存在であるかのごとく思い込もうとするのもまずいが、日本人のように、「まだ、だめだ。まだ足りない。自分はどうしようもない人間だ」と、自己批判が過ぎてもいけない。カギはセルフ・コンパッションだ。

(後編へ続く)

12月29日公開予定のインタビュー後編「16000人以上の『後悔』を調査したダニエル・ピンク氏が語る、人生で避けるべき最大の後悔とは?」も、ぜひご覧ください。