バンクマン-フリード氏が行った手口とは

 12月12日、バハマの警察はバンクマン-フリード氏を逮捕した。ニューヨーク州南部地区の連邦検事局は、同容疑者が顧客や出資者への詐欺、詐欺に関する共謀、マネーロンダリング(資金洗浄)、選挙資金の規制違反を行ったと判断した。

 特に、顧客資金流用の実態解明は急務だ。FTXのトップとして「仮想通貨業界の寵児(ちょうじ)」ともてはやされたバンクマン-フリード氏だったが、企業は社会の公器であることを理解し経営する意識は欠落していたといわざるをえない。

 事態は深刻、かつ古典的だ。12月13日に発表された米証券取引委員会(SEC)の声明には、「バンクマン-フリード氏はFTXの株主を欺く事業スキームを指揮した」との文言が記された。声明の中でゲンスラー委員長は、「バンクマン-フリード氏は、FTXが仮想通貨業界で最も安全な企業であると主張しながら、虚偽を基礎に砂上の楼閣(house of cards)を築き上げた」と非難した。

 投資詐欺の実体が解明されるのはこれからだが、SECの声明は、バンクマン-フリード氏が当初から投資家や顧客の資金の流用を念頭に置いていたことを示唆する。だとすれば、同容疑者の政治献金などは、事業から生み出された付加価値ではなく、詐欺に支えられた可能性が高い。被害を受けた顧客は100万人を超えるもようだ。

 顧客資金の流用は、これまでにも数多く摘発されてきた。リーマンショック後には「マドフ事件」が発覚した。マドフ事件とは、元ナスダック・ストック・マーケット会長の故バーナード・マドフ受刑者による巨額の投資詐欺事件だ。マドフ受刑者は、自らの社会的地位などを利用し、高利回りをうたい文句に資金を集めた。

 投資家はマドフ・ファンドからの高い利得を期待した。しかし、実態は違った。マドフ受刑者は株などで運用を行うのではなく、新規顧客の資金を解約資金などに充てていた。マドフ事件の被害額は650億ドル(約7兆円)に上ったといわれる。