マネックス 仮想通貨敗戦#2Photo:JIJI

米暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXトレーディングの経営破綻がマネックスグループ傘下のコインチェックを直撃し、資金繰り悪化の懸念が浮上している。足元の業績悪化に加え、業界全体のレピュテーション低下が主因だ。マネックスは特別買収目的会社(SPAC)との統合を通じ、2022年中にコインチェックを米ナスダック市場に上場させる計画だが、それは「風前のともしび」となっている。特集『マネックス 仮想通貨敗戦』(全5回)の#2で、その混迷ぶりを明らかにする。(フリーライター 村上力)

開成→東大法→ゴールドマン→上場
金融エリートが陥った「落とし穴」

 開成中学・高校から東京大学法学部を卒業、ゴールドマン・サックス証券で30歳にして最年少のゼネラルパートナー(共同経営者)、マネックス証券を設立1年で上場――。

 エリートの王道を歩むマネックスグループ社長CEOの松本大氏は、東京証券取引所や新生銀行などの取締役を歴任し、金融界の重鎮としての地位を上り詰めていった。だがマネックス証券はライバルの楽天証券、SBI証券に大きく水をあけられ、松本氏は2013年にマネックスグループの取締役会長に退いた。

 松本氏にとって、暗号資産(仮想通貨)は“リベンジ”の主戦場だった。

 17年10月、松本氏は「第二創業」を標榜してマネックス証券の社長に復帰。同年12月、マネックスクリプトバンクを設立し、仮想通貨に参入した。

 ライバルのSBIホールディングスは16年から仮想通貨事業に進出しており、後れを取っていた。そこに転がり込んできたのが、コインチェックのNEM流出事件である。松本氏はコインチェックを買収後、経営陣に東大法学部の後輩を送り込み、コインチェックは国内シェア1位を維持している。

 松本氏にとってリベンジの総仕上げが、コインチェックの米ナスダック上場だ。マネックスは今年3月、特別買収目的会社(SPAC)を使い、22年中にコインチェックを約2100億円で上場する計画を公表。5年の短期間で、企業価値を50倍までバリューアップしてのイグジットは、金融エリートにふさわしい快挙といえた。

 マネックスの株価は長年、株価純資産倍率(PBR)1倍前後の200~300円近辺で推移しており、低迷する株価の打開策はSPAC上場しかなかった。

 しかし、イグジット一歩手前で状況は大きく悪化した。仮想通貨の相場が冷え込み、コインチェックの業績は6月以降、赤字体質に。さらに11月、米仮想通貨FTXトレーディングの破綻という“大波”がマネックスを襲う。

 実はこのとき、コインチェック社内では、顧客から資金の引き出しが相次ぐことによる資金繰りが懸念されていた。その混迷ぶりの全てを、内部取材を基に次ページから明らかにしていく。