本書の要点

(1)睡眠時間が短いことのリスクは知られているが、長すぎても死亡リスクが高まる。重要なのは睡眠の長さではなく、質の高い睡眠を取ることだ。
(2)睡眠の質が低下すると、判断力、思考力、集中力などを司る大脳の前頭前野の働きが低下し、生産性が低下する。さらに、睡眠不足は脳内物質の分泌を阻害するため、気分の落ち込みを招く。
(3)睡眠の質を高めるには「思考整理ノート」が有効だ。思考を言語化して書き出すことで、頭の中を整理し、脳をクリアにすることができる。脳の負担を減らすことで、質の高い睡眠が得られる。

要約本文

◆睡眠のメカニズムを知る
◇睡眠時間は長ければよい?

 日本人の睡眠時間は、OECD(経済開発協力機構)に加盟している37カ国中、最下位だといわれている。このデータだけを見ると、「日本人は睡眠時間をもっと長くするべきだ」と考える人もいるだろう。しかし、一方で、OECD内の健康寿命を見ると、日本はトップクラスの長さである。同様に睡眠時間の短い韓国も、健康寿命が長い。一概に睡眠時間が長いほうがよいとはいえないのである。

 睡眠時間が短いことによるリスクはよく知られているが、睡眠時間が長すぎてもリスクが高まるというデータがある。睡眠時間と死亡リスクの関係についての研究では、睡眠時間は短すぎても長すぎてもリスクが高まることが示されている。1日平均10時間以上の睡眠を取る人は、7時間の人よりも死亡リスクが高まる。データを見ると睡眠時間が平均7時間の人が最も死亡リスクが低いが、だからといって安易に「睡眠時間は7時間が最もよい」と結論付けることはできない。なぜなら、最適な睡眠時間は人によって異なるからだ。

 最適な睡眠時間は、年齢や遺伝子によっても異なる。重要なのは、睡眠の時間よりも、質を高めることだ。本書では、時間ではなく質に注目し、睡眠の質を高めるための方法を紹介する。

◇快眠が心と身体のパフォーマンスを向上させる

 睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠がある。「レム」は「Rapid Eye Movement(急速眼球運動)」を意味し、レム睡眠中は眼球がキョロキョロと動いている。一方、ノンレム睡眠中の眼球は動かない。レム睡眠とノンレム睡眠は周期的に現れるが、その周期は年齢によって異なり、赤ちゃんは40~60分、成人は60~120分の周期で交代して出現する。この周期はよく90分といわれるが、実際には個人差があるため、一概にはいえない。