――筆者のジェームズ・マッキントッシュはWSJ市場担当シニアコラムニスト
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中央銀行は市場の信認を利用して金融政策運営を行うことがある。例えば、ユーロ防衛に「あらゆる手段」を講じるとしたマリオ・ドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁の発言は市場全般で固く信じられていたため、ECBは結果的に資金を全くつぎ込む必要はなかった。
一方で、中銀が信認を直接損なうような行為に出ることもある。日本銀行は昨年12月、「長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)」政策で生じた債券市場のゆがみを修整するための措置を発表。10年債利回りに設定していた上限を引き上げ、利回りの上昇を容認した。ところが、導入した措置は問題を解決するどころか、一部ではむしろ状況の悪化を招いた。日銀はその間、巨額の資金を投じながらも、望んでいない金融引き締めを招く羽目に陥った。
日銀は12月に打ち出した措置で、目指しているとは明言していないものの、世界にとって重要な二つのことを成し遂げた。具体的には円の値上がりと金利上昇への円滑な反応で、いずれも危機を招くことなく実現した。日銀が市場の圧力に屈し、債券利回りの上昇を完全に容認する展開になれば、衝撃は確実に小さくて済み、金融混乱を回避できるだろう。