新しい収益源が必要なサムスン電子
サムスン電子の事業戦略は大きな転換点を迎えている。これまでサムスン電子は、わが国などから家電やメモリー半導体などの生産技術を移転してきた。日本などから超高純度の半導体関連部材を輸入し、メモリー半導体のシェアを高めてきた。
リーマンショック後、サムスン電子はアップルのiPhoneのヒットを参考に、「ギャラクシー」スマホの大量生産体制を確立し、輸出競争力を高めた。スマホの世界的ヒットによってメモリー、ロジック半導体の需要は急速に増加した。
それを成長の加速につなげるべく、サムスン電子は国際分業体制に対応するためにファウンドリー事業の強化にも取り組んだ。成長期待の高い分野にいち早くヒト・モノ・カネを再配分し、大量生産体制を整備して世界トップのシェアを手に入れた。そうした企業風土の醸成において、故・李健煕(イ・ゴンヒ)前会長の果たした功績は大きい。それは韓国の輸出主導の景気回復を支えた。
しかし、新しい製造技術の創出という点で、サムスン電子の力はまだ十分ではないようだ。例えば、次世代の回路線幅3ナノメートルのロジック半導体の量産において、サムスン電子はTSMCよりも先に量産を発表した。しかし今のところ、サムスンの3ナノチップは自社利用、および中国向けが主とみられる。
一方、TSMCは米国政府の支援強化を取り付け、アリゾナ州に3ナノの生産ラインを建設する。22年12月には台湾で3ナノチップの量産を開始。アップルの製品や最先端のサーバーなどに供給されるとの見方は多い。
良品率を高めつつ量産体制を整備する点においては、ファウンドリー専業のTSMCに一日の長がある。さらに、半導体分野では日米台の連携も強化されている。
サムスン電子は1月6日の決算(速報値)発表後も、23年の設備投資計画に変更はないとしている。裏を返せば、新しい半導体などを自力で生み出す体制を確立したい経営陣の覚悟の表れだと捉えることができる。