未踏ジュニアに挑戦し、成果を上げたことで大塚さんは次のチャンスをつかんだ。2018年、孫正義育英財団2期生に選ばれたのだ。同財団は「『高い志』と『異能』を持った若者に自らの才能を開花できる環境を提供し、人類の未来に貢献する」ことを目的に、2016年12月に設立された。創設者・代表理事は財団名の通り、孫正義・ソフトバンクグループ代表、副代表理事は山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所名誉所長が務める。財団生に選ばれると、新しい価値観やテクノロジーに触れる環境や、一流の志を持つ仲間と交流する機会を得られ、さらに必要に応じて夢を実現するための支援金を給付される。

コミュニティがどんどん広がった

「未踏ジュニアに参加し、孫正義育英財団の財団生に選ばれて何より良かったのは、テクノロジーに興味を持つ人たちとの繋がりができたことです」

 財団が主催する講演会に参加したり、渋谷にある交流スペースを利用したりできる。定期的に開かれるイベントで、各財団生は自分が興味を持っている研究開発テーマについてプレゼンして、各業界の専門家からアドバイスをもらったり、他の財団生たちが「自分もやってみたい」と集ってその場でチームが立ち上がったりするという。

「未踏ジュニアも孫正義育英財団も、同じソフトウェアでもセキュリティー方面に関心のある人や自分とは異なるプログラミング言語を使っている人、ロボットなどハードウェアの開発に興味のある人など、自分にはそれまで見えていなかった、いろんな分野に興味を持っている人と知り合えます。知り合いから別の知り合いを紹介してもらいながら、コミュニティがどんどん広がりました。みんな時間を無駄にしないと言いますか、やりたいことに全力で取り組んでいる。そんな姿に僕も刺激を受けています」

仲間たちと作った街歩きのアプリ

 実際、孫正義育英財団以外の仲間とも繋がり、大塚さんが企画したプロジェクトもいくつか立ち上がっている。その一つが、渋谷スクランブルスクエア株式会社が運営する渋谷キューズ(QWS)が推進する「QWSチャレンジ」の支援を受けて2019年から開発を進めていたARアプリ「Creace(クリエ__イス)」。

 ARは「ポケモンGO」で有名になった技術だが、簡単に説明しておこう。まずARとはAugmented Realityの略で、日本語では拡張現実と訳される。スマホやタブレットなどのカメラで、現実世界を画面に表示させる一方で、そこに何かコンピュータグラフィックス(CG)のオブジェクトを重ねて表示させるのが基本的な技術だ。位置情報を使えば、CGオブジェクト(たとえばポケモンのモンスター)が建物の前や公園のベンチなどに出現して、動き回るなど、実際にそこに違和感なく存在するような見せ方も可能だ。

 Creaceについては、まずは案内板のようなものをイメージしてもらえばよいだろう。といっても普通の案内板は、現実世界に物理的に置かれているが、Creaceでは3Dオブジェクトとして表示される。この3Dオブジェクトの案内板は、位置情報と連動しており、実際にその場所の近くで、スマホかタブレットを向けないと、その周辺にどんな店舗があるのか、どんな施設があるのかといった情報にアクセスすることはできない。不便にも思えるが、多くの場合、ある場所の周辺情報がほしくなるのは、その場所を訪れたときであることを考えてみればむしろ便利だと言える。前もって地図アプリを使って地名で検索したり、検索アプリで店名や名所を調べたりする手間が省けるからだ。あらかじめ情報を仕入れておけば、それだけ効率的に行動できるが、それだけでは面白味がない。Creaceは、出たとこ勝負で行く先を探索せざるを得なかったかつての町歩きの楽しさをバージョンアップしてくれるツールと言えるだろう。