相続&生前贈与 65年ぶり大改正#2Photo:PIXTA

「タワマン節税」を封じるための包囲網が狭まっている。2023年度の税制改正大綱ではついに増税が“予告”された。あまりに露骨な税逃れに、堪忍袋の緒が切れた国税庁が、これから本気でタワマン節税をつぶしにかかりそうだ。特集『相続&生前贈与 65年ぶり大改正』の#2では、タワマン節税封じの行方を追った。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)

「週刊ダイヤモンド」2023年1月7日・14日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

国税当局が抜いた「伝家の宝刀」
タワマン節税裁判で納税者が敗訴

 不動産業界や税理士業界が大注目していた裁判の、最高裁判所の判決が2022年4月19日に下された。タワマン(タワーマンション)を購入し、相続税の節税を行う通称「タワマン節税」というスキームを巡って国税当局と納税者が争った通称「タワマン節税裁判」だ。

 そもそもタワマン節税とは何か。

 相続税を申告する際、通常土地は路線価を用いて評価額を算定する。しかしマンションの場合、まず敷地全体の評価額を算定し、これを区分所有の所有権割合で分割し、各戸の土地評価額を算出する。そうすると各戸に割り当てられた土地面積は数十平方メートルしかないということが一般的で、一軒家より集合住宅の敷地の方が圧倒的に土地評価額は安くなる。

 特に戸数が多く縦に長い構造のタワマンは1戸当たりの敷地面積が15平方メートル前後しかないため、市場では高額でも、相続税上の評価額はかなり低くなる。

 その上、タワマンを賃貸物件として運用する場合にはさらに借家権割合など評価減額要素があり、時価(相場)に対して路線価による相続税評価額が大幅に安くなるケースが生じ得る。この差額を利用して、資産家が手元資金や借入金を原資にタワマンを購入し、現金で相続するよりも相続財産の評価額を大きく圧縮できるというのがタワマン節税のスキームだ。

 冒頭の裁判ではこのタワマン節税の1事例の是非が争われたわけだが、結果は、一審、控訴審、上告審全て納税者が敗訴した。

 しかし脱税ならいざ知らず、節税という行為自体に何ら違法性はなく、国税当局もよほどの事情がない限り、税の公平の観点から、従来の相続財産の評価(財産評価基本通達)を尊重するのが通例だ。

 ただし、この財産評価基本通達には例外があり、あまりにも目に余る事例に関しては国税庁長官の指示を受けて評価することが可能という規定(総則6項)がある。

 この総則6項は、めったなことでは適用しないという意味を込めて「伝家の宝刀」とも呼ばれている。今回の裁判では、国税当局がまさにこの伝家の宝刀を抜いた形だ。

 次ページでは、この判決の影響とみられる、23年度税制改正大綱でのタワマン節税への「増税予告」や24年度税制改正の焦点など、タワマン節税封じの行方を追った。