変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。同書から抜粋している本連載の書下ろし特別編をお届けする。

東南アジアで「日本人とは会いたくない」というスタートアップが増えた理由Photo: Adobe Stock

存在感を増してきた東南アジアのスタートアップ

 日本の高度成長期には、自動車産業やエレクトロニクス産業を中心として、良い物を安く作ることで日本企業が世界を席巻しました。

 20世紀後半になりデジタル革命が起こると、GAFAMなどのグローバル企業に加え、交通渋滞や小売りなどのローカル課題を解決するローカル型スタートアップの躍進が目立つようになりました。東南アジアでは、一時20兆円以上の時価総額を誇ったSeaや生活にかかわる多くの問題を解決するGrabGojekといったスタートアップが、いまや社会インフラの一部となっています。

 私は東南アジアを拠点にグローバル企業のアドバイザーをしていますが、この10年、戦略立案や実行の支援をしていく中で、東南アジアのスタートアップと連携をする機会が圧倒的に増えてきました。

膨大な時間を費やして、何も得られなかった

 しかしながら、大変残念なことに、スタートアップにコンタクトをした際に「過去に日本企業と連携をする中で苦い経験をしたから会いたくない」と断られることが増えてきました。

 スタートアップからは「日本企業による投資検討のため、膨大な時間を費やして情報を提供し、何度も面談を重ねたが、話が一向に前に進まなかった。本当に投資する気があったのか、はなはだ疑問」「日本から来たお偉方に対してプレゼンをしたが、何の質問もされなかった。何のための訪問だったのか」というような声が聞かれます。

 スタートアップの経営者は資金調達のために多くの投資家に会い、そしてその多くで断られます。それでも、自分や仲間を信じて、限りある時間を投資家や潜在パートナーとの面談に充て、全身全霊でプレゼンをしています。

 その中で、前述のような対応をされたときの心境は、想像に難くありません。

共創力を身につけてスタートアップと価値を共創しよう

 一方で、これまで多くの日本企業が東南アジアのスタートアップと連携して、多くの価値を共創していることも事実です。資金提供のみならず、日本企業が技術力やネットワークを提供することで、多くのスタートアップから感謝されています。

 それだけに、前述のような事例が増えて日本企業のイメージを下げる結果になってしまっているのは残念でなりません。

 業界という垣根が壊れつつある今の時代、下図の通りプレイヤーの関係性はこれまでのタテからヨコに変化を遂げています

 東南アジアのスタートアップとうまく連携している企業は、資金の出し手や発注元として上から見下ろすのではなく、一緒に価値を共創するパートナーとしての関係を築いています。

 これからの時代に大切なのは、環境の変化に合わせて構想して、社内外の多様な人たちとコラボするための共創力を身につけることです。

アジャイル仕事術』では、働き方をバージョンアップするための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。