民主主義の選挙は、有名人も、金持ちも、貧乏人も、みんな平等。みんなが同じ1票を持っています。実に美しい制度です。もし投票にも行かず、誰かが社会を良くしてくれるなどと甘い思いを抱いて過ごしているなら、甘過ぎるにも程があります。そんな日など、永遠にやってきません。あなたが動かなければ、社会が変わることなんて起こりえないのです。

「ポスターの中から選ぶだけ」は
もうやめましょう

「選挙に行けと言われても、投票したい人なんていない」。

 よく聞く言葉です。

 そもそも立候補している人たちをよく知らない。地方選ならまだしも、国政だと投票所でたくさんの名前を目にして、「この人、誰?」という反応になってしまう。

 ニュースで国の政治や政治家の名前を見聞きしても、「自分ごと」だなんて到底思えない。別の世界の出来事であり、政治が身近にあるとは実感できようもない。政治が国民のほうを向いて行われていないし、政治家も国民から遠いところにいる。それが日本の残念な現状です。

 そんな現状では、誰も選ぶ人がいない。そんなふうに考えても不思議ではありません。

 でも、自分が選ばなくても、誰かが当選して政治を担うのです。

 投票しないこと、それはあなたや家族の人生を「成り行きに任せること」にしたのと同じようなものです。

 私たちは選べる。政治に参加する権利があります。

 その気になれば、立候補することだってできます。

 もし選ぶ人がいないなら、あなた自身が立候補すればいい。自らが立ち上がり、あなたのポスターを掲示版に貼り、市民のためにより良いまちにしていく。一定の年齢以上であれば、誰でも立候補できるのです。試験もないし、資格も必要ない。必要なのは「志」です。自分や周りの人たちの生活を良くしたい。すなわち、今の冷たい社会を良い方向に変えるという強い気持ちです。

 まちを良くしたいという強い志と「語る言葉」があればできることです。それが政治家に一番必要なもの。闘う要件はすでに備わっているのです。

 我がまちを自らの手で、より良く変えていくことができる。あなたは自分たちのまちを自分たちで幸せにしていいのです。あきらめてはいけません。

 こんな冷たい社会がイヤなら、首長に立候補すればいい。とりわけ地方の選挙は風向きが変わってきています。全国各地で、政党や業界団体の支持を受けていない、無所属の候補者が「市民の支持」を受けて当選しています。

 あなた自身が立候補しないなら別の方法として、信じられる人を探して、担ぐこともできるはずです。そんな人はすぐには見つからないかもしれない。それでもベターな選択肢を自分たちでつくるその過程も、まちを変えていくことにつながります。

 東京から明石に戻ってきたとき、私もまた、たくさんの友人、知人から声をかけられました。「市長になるんやったら応援するで」。多くの温かい気持ちをいただきました。

 一般市民が応援できる、市民のほうを向いた政治家を増やしていく。そのことが政治を変え、冷たい社会を変える力になる。全部つながっていくのです。

 フランス、イギリス、アメリカ……多くの国が市民革命を起こして、市民が自らの手で民主主義を勝ち取ってきました。

 日本は1度も民衆が社会を勝ち取っていない、世界でも珍しい国です。市民が自分たちの手で社会を変えられると思っていない。世間話で政治というテーマに触れるのをタブー視しがち。政治の現場にいる者から見ると、「社会は自分ではない他の誰かがつくるもの」だと思う傾向が強いと感じています。

 スウェーデンの中学校には「私たちの社会」という副読本があり、国民の権利や義務、コミュニティにおける行政と市民の役割などを教えています。「社会は自らつくるもの」という意識が強く、富裕層向けの減税策が発表されると、格差拡大につながるとして反対デモが起こります。

 私は子どものころからずっと、社会は理不尽で変えるべきもの、変えるのは自分だと強い思いを抱き続けてきました。政治をタブー扱いして、声を上げることもせず、行動を起こさなければ、気づいたときにはもう茹でガエル。国民を見ようともしない政治家の思うツボです。

 投票にも行かず、立候補もせず、候補者も見つけようとしない。

 そんなことを続けていては、冷たい社会はちっとも変わらず、私たちの生活はますます悪くなります。そうなってからでは遅すぎます。

選挙はすでに変わりつつある

 少なくともいくつかのまちではすでに、変化の兆しが見えはじめました。

 近年の選挙では、全国各地で「子ども」が大きなテーマに掲げられるようになってきたのです。子ども医療費の無償化、学校の給食費無償化などを選挙公約に掲げ、候補者同士で競う状況にもなっています。その結果、選挙後に待望の「子ども施策」が実現し始めているまちもあります。

 最近のある市長選では、候補者全員が明石市のような子ども施策を掲げ競っていました。これまでかたくなに「予算がない」「明石市長はあのキャラだから」などと言われ、見向きもされなかった子ども施策が、実現可能な施策として公約にまで掲げられ、明石以外の他のまちでも実際に広がってきたのです。

 子ども施策、つまり市民のほうを向いた政策が公約になった理由は、そのほうが「選挙に勝てる」からです。

 市民の経済的負担が増え、子育て環境はますます厳しくなり、急速に少子化が進み、さらには虐待やネグレクトの問題も顕在化する時代です。

 切実な声はもはや、政治家が無視できない。そんな時代になりました。私が最初に市長選挙に立候補した2011年とは隔世の感があります。ようやく世間の風向きも変わってきたと感じています。

 本当はできるのに、できないと言われ続けてきました。それでも私はあきらめることなく「本気になれば、どこのまちでも、国でもできる」と訴え続けました。それがようやく証明され始めました。

明石市は選挙でまちを変えた

 トップの決断で予算配分は変えることができる。寄り添う体制をつくることもできる。もはや日本は衰退する一方だなんて、私たちの将来を悲観することはありません。冷たい社会を変えようとする政治家を選べばよいのです。

 トップが動けば、まちは変わる。本当に市民のために責務を果たす人を私たちが選べば、子どもや子育て層だけでなく、まちのみんなが幸せになっていく。まちも住民の暮らしも、実際に良い方向へと変えていけるのです。

 明石市は選挙でまちを変えました。そんな明石の軌跡を人々が知るようになり、世の中も無視できなくなったのではと感じています。少しは私の辛口トークも役には立ったのかもしれません。

 明石市の近隣自治体で若干の広がりをみせてきた子ども医療費の無料化は、全国でも広がっています。

明石市の評判を大改善した泉市長の訴え「あなたの選択が政治を変える」1963年明石市二見町生まれ。1987年東京大学教育学部卒業後、NHKディレクターに。1997年弁護士、2003年衆議院議員を経て2011年より現職。「5つの無料化」に代表される子ども施策のほか、高齢、障害者福祉などに力を入れて取り組み、市の人口、出生数、税収、基金、地域経済などの好循環を実現。人口は10年連続増を達成。柔道3段、手話検定2級、明石タコ検定初代達人。 写真:片岡杏子

 2023年からは、東京の23区も、所得制限なしで高校生までの無料化を始めることになりました。これで間違いなく周辺の自治体、多摩地区や千葉、埼玉、神奈川も追いかけてくるでしょう。首都圏でオセロが一気にひっくり返るのが見えてきました。国も間もなく動かざるを得なくなるのではと期待しています。

 国の施策になれば、他の地域でも状況は改善します。明石でも市独自の負担が減り、浮いたお金でもっと先に行くことができます。

 私たちがはっきりと意思表示すれば、私たちの暮らしは変わることが証明されつつあります。私たちのための政治に変わり、やさしいまちに変わっていくのです。