デジタル化の進捗度や課題を
セルフチェックできる「みらデジ」

 ここからは、中小企業対象の各種支援策を活用した、デジタル化の賢い進め方について紹介していこう。

 一般に大企業が大手のコンサルティング会社やITベンダーなどにDXコンサルティングを依頼した場合、大まかには、アセスメント(デジタル化の現状評価・査定)→DXビジョン・戦略の策定→(システム・機器の選定を含めた)実行プラン策定→システム導入→業務への定着、といった流れで進むことが多い。中小企業向けの公的支援策としてもこれを一気通貫で支援するメニューがそろっている。

 デジタル化への取り組みが遅れている企業に共通するのが、「どこから手を付ければいいのか分からない」「どう進めればいいのか分からない」といった悩みだ。そうした企業にまず利用をお勧めしたいのが、中小企業庁が2022年7月に立ち上げたポータルサイト「みらデジ」だ。

デジタル化を加速させる、公的支援制度の賢い活用法村山 香(むらやま・かおり)
中小企業庁 経営支援部
経営支援課 課長補佐
2016年大阪大学大学院工学研究科を卒業後、経済産業省に入省。資源エネルギー庁では、火力発電所等のエネルギー効率化に関する制度や低レベル放射性廃棄物の処理に関する制度の企画立案などを担当。2020年から中小企業庁で持続化給付金等の執行に携わり、2021年から現職。中小企業のデジタル化支援策などを担当する。

 みらデジは、主に「みらデジ経営チェック」「無料リモート相談」「みらデジ知恵袋」の三つの機能を備えている。みらデジ経営チェックは、スマートフォンやパソコンから六つの設問に回答することで、自社のデジタル化の進捗度や弱み、課題などを確認できる。

 冒頭の設問は、経営者としての夢やビジョン、経営上の課題について回答するものとなっている。「夢やビジョンの実現、経営課題の解決による売り上げ向上が経営者としての本来の目的であり、その目的を達成するための手段がデジタル化。DXの成功事例を見ても、ビジョンについてしっかり議論し、経営方針を定めた上で、デジタル化の取り組みを始めている企業が多い」(村山氏)からだ。

 自社の将来像やビジョンを明確に定義しないまま、DXプロジェクトをコンサルやITベンダーに丸投げし、社内の賛同や協力を得られずにプロジェクトが頓挫するという例は多い。まずはビジョンや課題設定ありきという前提を、経営者は肝に銘じておきたい。

 みらデジで利用者登録を行うと「マイページ」が作成され、経営チェックの結果を保存できる。チェック結果を同地域・同業種の事業者と比較することも可能だ。ちなみに、2023年1月15日時点で、すでに3600社以上が「みらデジ経営チェック」を利用している。

リモート相談だけでなく、
専門家の派遣も受けられる

 みらデジ経営チェックの結果をもとに、中小企業診断士やITコーディネータといった専門家に、電話やウェブ会議システムを通じて課題解決へのアクションを相談できるのが、「みらデジ無料リモート相談」である。デジタル化の取り組みに向けたアドバイスを受けられるほか、IT・デジタルツールの機能や補助金制度などについても紹介してくれる。

 専門家のアドバイスを受けた後は、いよいよIT・デジタルツールを活用した課題解決に取り掛かることになるが、その段階でデジタル化による経営改善事例など役に立つ情報が掲載された「みらデジ知恵袋」を参考にするのもいいだろう。

 無料リモート相談だけでは心もとない場合は、商工団体やよろず支援拠点などの支援機関に相談することもできる。これら支援機関では、資金繰りや就業規則、省エネ対策を含む経営課題全般の相談に応じているが、昨今は「IT・デジタル活用の相談が増えている」(村山氏)という。

 支援機関でも解決できない課題があったら、支援機関を通じて専門家を派遣してもらう「中小企業119」を利用できる。IT・デジタルツール導入後のフォローアップにも専門家が対応してくれる。2022年度の中小企業119事業では、派遣を受けられるのは5回まで(初回は無料、2回目以降は費用負担が発生)だった。23年度も継続して実施される見込みで、中小企業119のウェブサイトなどで詳細を確認してほしい。

 DXに向けた戦略とアクションプランが固まっても、肝心の投資資金が足りない、あるいは費用対効果を測定するのが難しく投資に踏み切れないといったこともあるだろう。そうしたときに心強いのが、IT導入補助金である。IT・デジタルツールの導入を支援する制度で、最大で導入費用の4分の3の補助を受けられる。さまざまなメニューがあるので、次ページ以降で詳しく説明しよう。