日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由グローバル化がいまだかつてなく活発化する中で、今日の資本は、資本主義の枠組みと袂を分かってしまった。つまり、資本の“主義なき資本化”である(写真はイメージです) Photo:PIXTA

グローバル化の進展とともに、「21世紀の資本」は凄まじい規模と速度で国境を越え、暴利をむさぼっています。一部富裕層への「富の偏在」が著しくなる一方で、先進国でも貧困が問題となるなど、格差は拡大し続けています。我々労働者は、このような時代に「働くこと」とどう向き合うべきなのでしょう――。エコノミスト浜矩子さんの著書『人が働くのはお金のためか』(青春出版社)より抜粋して紹介します。

ブームを引き起こした『21世紀の資本』

 皆さんはフランスの経済学者トマ・ピケティの著作、『21世紀の資本』(みすず書房、2014年)をご記憶だろうか。

 ピケティは、富裕層の不労所得の増大と集中が経済格差の拡大をもたらすメカニズムを解明した。そして、グローバル化の進展とともに、富の偏在が一段と進んでいると指摘した。この分配上の歪(ゆが)みを是正するための方策として、ピケティは国際的な資本課税の導入を提唱した。今日このテーマは、国々の国際課税論議の中で大きな位置を占めている。

『21世紀の資本』は決して読みやすい本ではない。にもかかわらず、世界で、日本で、人々がこの著作に群がった。

 その有様(ありさま)は、さながらアダム・スミスの『国富論』刊行時のごとしだった。アダム・スミス大先生が1776年に『国富論』を刊行したことによって、経済学という学問ジャンルが確立した。