「叱る」を有益なものにするためには
人前で叱ることをやめて起きた変化

「叱る」場所が人前か、1対1かは重要だが、叱る側の心構えやテンションも同じくらい大事らしい。
 
「叱る」が「改善することへの願い」から生じていれば健全である。純粋にそう思いながら叱れる人は、冷静さを失うことなく、相手と建設的な話し合いに臨むことができる。
 
 しかし「叱る」には、怒りや加害行為への快感が混ざることがあり、こうなると「叱る」は「怒る」や「いじめる」に変化し、まったく別の行為となる。
 
 ここまで主に「リーダー・上司と部下」の構図で説明してきたが、この考え方は「親と子」として子育てにも適用できる。人前で叱ることを極力避け、自分のテンションに「怒り」を混ぜていないことを確認し、相手の能力や人格などを否定せず、どの行為がどういった理由で問題なのかを伝え、どうすれば改善されるかを冷静に話し合う……これが美しく、また相手の成長を促せる建設的な叱り方である。
 
 筆者はギルドリーダーとしてはだいぶ優しい方で、「誤解がないか・相手の言い分はどうか、叱ることで相手をおとしめようとしていないか」に気をつけてはいたが、人前(ギルドのチャット)で誰かを叱ったことは何度かあった。その時、相手からその場で「わかりました」の返事がないこともしばしばあった。
 
 しかし、何かを注意する際にメールでするようにしたら、相手が素直に、いとも簡単に「ごめんなさい。気をつけます」と返事を寄越すのである。顕著な変化であり、人前で叱らないことの効果の高さを目の当たりにしたのであった。
 
 私たち日本人は、教室で職場で、先生や上司から、みんなの前でよく叱られてきた。それゆえ、叱られることに対する耐性がある程度身に付いているが、見直してもいいかもしれない。そして「人前で叱らなくていいケース」について考えを及ばせることで、「人前で叱るべきケース」も的確に判断できるようになるはずである。

<参考文献>
島村華子『モンテッソーリ教育・レッジョ・エミリア教育を知り尽くしたオックスフォード児童発達学博士が語る 自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』ディスカヴァー・トゥェンティワン(2020年)
吉田裕児『部下が変わる本当の叱り方』明日香出版社(2020年)