2023年3月期決算から、上場企業などを対象に「人的資本の情報開示」が義務化される。準備万全の企業もあれば、そうでない企業もあるだろう。ここでは、人的資本情報を開示するメリットと課題について整理する。(ダイヤモンド社 ヴァーティカルメディア編集部 大根田康介)
数字だけでは将来性を見抜けず
人的資本の情報開示への潮流
2023年3月期決算以降、上場企業など有価証券報告書を発行する約4000社は、女性管理職比率や男性育児休業取得率、男女の賃金格差といった重要業績評価目標(KPI)について、有価証券報告書の「従業員の状況」に記載しなければならない。いわゆる「人的資本の情報開示の義務化」が始まる中、日本企業は人的資本経営への取り組みが喫緊の課題となっている。
およそ1990年代まで、企業の将来性は決算数字で判断するのが主流だったが、近年、先進諸国を中心に、経済のソフト化が進む中、この考え方が変化してきた。工業製品の生産地が新興国に移り、先進国企業での価値創造の源泉が、生産設備などのハードから、知的資産やブランドなどのソフトへと比重が少しずつ移っているのだ。
そこで、従来の財務上の数字だけを見ても企業の真の実力や成長性は分からないという考え方が広まった。財務諸表で十分に数的に示されていない無形資産、すなわち人材、企業文化、エンゲージメントなどにも着目して将来性を分析していこうという潮流がアメリカで生まれた。
こうした投資家や市場のニーズから生まれた潮流が日本にも入り、2020年9月に人的資本経営についてまとめた「人材版伊藤レポート」が公表され、今回の義務化に行き着いた。日本企業側が積極的に作り出した潮流ではないため、「義務化されるから開示しないといけない」と受け身の企業もまだ多いのが実態だ。
そこで、人的資本情報の開示による企業、就職者の双方にとってのメリットと今後の課題について、以下、整理していきたい。