政府は2月14日、日本銀行の次期総裁に経済学者の植田和男氏、副総裁に前金融庁長官の氷見野良三氏と、日銀理事の内田真一氏を起用する人事案を国会に提出した。事前の予想から大きく外れた人事に市場ではサプライズの声が上がるも、好感を持って受け止められているようだ。本稿では、次期総裁となる植田氏の過去の発言などを踏まえながら、新体制下の日銀の金融政策を展望し、市場が期待する日銀の「在り方」を再考したい。
機械的な金融政策運営を嫌う財政再建論者の顔
筆者は植田氏の金融政策の考え方を、おおむね次のようにみている。
●「貨幣供給量を増やせばデフレは脱却する」というリフレ派の主張に否定的
●異次元の金融緩和の枠組みは副作用が大きくなり、再検討が必要
●物価目標2%の達成努力が長期的に市場機能を阻害し、経済は不安定化
●現状の物価高の下で金利を引き上げる出口戦略ツールとして2%物価目標を肯定
●円安阻止目的の利上げには否定的
●中央銀行の「信認」や、市場の予想に作用するシグナル効果を重視
そして中央銀行の政策目標・運営については、機械的なルールに基づいて金融政策の運営を行うようなことはしないとみる。植田氏は、中央銀行の在り方を述べる際に米連邦準備制度理事会(FRB)の議長を務めたバーナンキ氏らの実証研究を引用することが多い。その内容は「物価安定以外にも各国中央銀行は時期によって異なる多様な目標を追求しており、機械的なルールに基づく政策運営はみられない」というものだ。植田氏の理想とする中央銀行は、状況に応じた機動的な政策運営を行う中央銀行だと読み取れよう。