これからのデザイナーに求められる「自律性」
――新卒採用でも「拡張されたスキル」は重視されるようになっているのでしょうか。
そこはそうでもないですね。そもそも大学教育などで、いわゆる「広義のデザイン」の実践力が身に付くかというと疑問です。講義を受けただけで「デザインもビジネスも学びました!」と言っても、なかなか即戦力とはなり得ないのが実情だと思います。
美大出身の優秀な新入社員だって、入社してすぐにプロダクトデザインができるわけではないのに、現在進行形で拡張しつつある領域のスキルならなおさら、実践抜きには身につかないでしょう。それに、「デザイナー」を名乗る以上、手を動かして具体的な形を作る技術や、的確にインサイトを見つけるセンスが重要です。狭義のデザイン力は必ず広義のデザイン力の下支えになると考えています。
――では、デザイナーの資質や姿勢といった面で重視していることはありますか。
「自律性」ですね。リコーの人事制度としても「自律型人材」の重要性が示されています。会社が向かおうとする方向性を理解した上で、自分のやるべきことを判断し、自ら行動できること。例えばデザイナーが新規事業開発のプロジェクトに参加したとき、いちいちデザイン部門に戻って上司の指示を仰がないと動けない人は役に立ちません。もちろん、好き勝手するのではなく、利害が衝突しそうな微妙な局面では、きちんと上司と相談できるバランス感覚も必要です。
そういう自律型のデザイナーは、今後求められるスキルや役割が変わっていったとしても、自分がどこに向かって成長していくべきか、自分で決められるはずです。
自律型人材を増やすためには、採用戦略の変革も必要だと思っています。デザインを学ぶ学生さんにとってリコーは知名度が高くないのが現状です。企業説明会などで説明すると興味を持ってくれる人はいますが、そういう昔ながらのリクルート活動だけでなく、こちらからポートフォリオを見て学生に声を掛けていくようなアクティブなアプローチにも力を入れたいと思っています。