米IBMの技術供与で「最先端半導体の国産化」を目指すラピダスは難航必至のプロジェクトだ。それでも小池淳義・ラピダス社長は自ら作成した「ラピダス20年計画」を根拠に、事業化の成功に自信を示す。特集『半導体 最後の賭け』の#14では、練り上げた事業戦略の全貌を明かしてもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 村井令二)
IBM技術の国産化は可能
経営の「20年計画」
――日本の半導体の微細化は、台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子に比べて20年近くの遅れがあります。それでも世界最先端の2ナノメートル(ナノは10億分の1)半導体の国産化ができると判断したのはなぜでしょうか。
米IBMから2ナノの技術で日本とパートナーシップを組みたいという提案があったからです。もちろんIBMも商売としてわれわれに技術をライセンスするのですが、日本にとって大きなチャンスだと思いました。
2ナノ世代の半導体は新たなチップ構造に移行します。“ゲームチェンジ”のタイミングなので、過去20年近くの技術の積み上げがなくとも、(TSMCやサムスンに対抗できる技術の)ジャンプアップができると判断しました。
もちろん、IBMの技術は難度が高いので学ぶことはたくさんありますが、むしろ過去を飛ばしてジャンプアップできるのは、新構造を習得する上での強みになるとも思っています。
――2019年夏に東哲郎さん(現ラピダス会長)がIBMの幹部から日本に2ナノ技術を供与する相談を受けたといいます。そこから東さんと小池さんは、会社設立までどんな準備をしてきたのでしょうか。
東さんからIBMの技術の検証依頼があったのは19年秋ごろです。私は過去に(日立製作所が設立した半導体会社の)旧トレセンティテクノロジーズでファウンドリー(半導体の受託生産会社)の立ち上げに挑戦したので、当然、日本に最先端のロジック半導体の工場は必要だという思いはありました。
ただ、私だけで判断するのは良くないと思い、次の世代の若い人たちの意見を聞いて「本当にIBMと組んで2ナノの先端ロジック半導体の量産が日本でできるのか」ということを話し合って決めたいと考えました。
そこで19年冬ごろに「Mt.FUJIプロジェクト」という名前の検討会を立ち上げて、知り合いの技術者に1人、2人と声を掛けて数人のメンバーを集め、毎週水曜日の夜に会議を開いた。それがスタートです。
正直に言えば、最初の頃は「そんなのうまくいくわけがない」と言う人も多かった。日本の微細化のプロセスは、TSMCやサムスンから20年近く遅れているのに一気に2ナノに飛ぶなど不可能だと。
そういう人たちは「付いていけない」と言って去ってしまい、何度かメンバーは入れ替わりました。最終的には7人くらいが残って「できる」という結論を出しました。
もちろん技術でクリアできるとしても、会社の経営には資金と人材が必要です。そこで私は経営者として、入念なビジネス計画としていつまでに何をするかという「20年計画」を作成しました。
――「20年計画」とは、どのような内容なのでしょうか。
ラピダス会長の東氏から、IBMの2ナノ技術の検証を依頼された小池氏は「日本で可能」との結論を出した。資金集めや人材確保など課題は多いが、自身が経営者の目線で作成した「20年計画」を青写真とし、会社のスタートを切った。次ページで小池氏は、自身が描くビジネス戦略や勝ち筋を余すことなく語った。