(1)(2)を比較すると、実労働時間としては3倍の差があります。

 つまり、同じ利益を上げるためにかかったコストが少ない(2)のほうが、効率がいいのです。これが、キーエンスの経営の原点となっている「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」という理念です。

 この理念を徹底的に追求することで、キーエンスは他社に比べて圧倒的な待遇、平均年収2000万円超えを達成できています。

 時価総額上位の日系企業とキーエンスを比較してみましょう。本書(2022年11月発刊)執筆時点では、キーエンスの時価総額は約12.5兆円、ソニーの時価総額は約13.5兆円、NTTの時価総額は約14.3兆円です。

 ソニーの従業員数は約11万人、NTTの従業員数は約30万人です。一方、キーエンスの従業員数は約9000人です。

 従業員一人当たり時価総額で見ると、キーエンス約1.4億円、ソニー約0.12億円、NTT約0.04億円となるのです。(時価総額は刻々と変動するものなので、正確な数字で算出する場合は専門サイトなどを確認してください)

 これを見ると、「雇用を大量に生み出す」という考え方とは逆の発想のように思われるかもしれませんが、キーエンスの理念は、これから労働人口が減り、より効率化が求められていく日本では非常に重要な発想です。

自社に技術がなくても
開発を諦める必要はない理由

 続いて「商品実現」(商品開発)に触れておきましょう。

 ここで、「ニーズ」に加えて「シーズ」に注目してほしいと思います。マーケティングにおいて、ニーズとともに取り上げられるのが、「シーズ」です。

 シーズは、企業が持っている「種」、つまり、その企業独自の技術力、企画力やノウハウ、材料や素材などを指します。商品を開発する際には、ニーズ(消費者)視点で考えるのか、シーズ(生産者)視点で考えるのかという議論があります。

 マーケットイン型の考え方では、「両方大事」です。

 キーエンスでは、シーズに対する考え方も独自性が際立っていて、かなりユニークです。

 私が在籍していた当時、キーエンスは商品開発のための基礎研究施設を自社で持っていませんでした。シーズを自分たちで独自研究開発するのではなく、シーズとなる技術を外部(世界中)から集めていたのです。