2回やらかしたら倒産!経営者が最も恐れる「イエローカード」とは?『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第8回は、2度繰り返すと事実上の倒産となる「イエローカード」について説明する。

昼間っからカップ酒を飲む従業員を一喝

 1億円の資金調達を経て、いよいよ新規事業の立ち上げを進める主人公・花岡拳。出資者である実業家・塚原為ノ介が出した条件である「ホームレス10人の採用」も無事完了し、ビジネスの“種”を探しはじめる。

 だがことは簡単には進まない。花岡が新規事業を模索するあいだ、花岡は元ホームレスの従業員たちに街の清掃を命じていたのだが、従業員のひとり「トッツァン」こと小池定吉が、清掃もせずにカップ酒を買い、飲み始める。

 飲酒を繰り返すトッツァンにしびれを切らした花岡。オフィスでトッツァンに説教をし、従業員のリーダー格・日高功に、トッツァンが飲酒しないよう監視を命じるのだった。

「クズ野郎から抜け出したかったら、ちゃんとまともになれ」

「まず真人間になって、仕事はそれからだ」

 そう怒鳴った花岡は、自身の外出予定もあることから、その日の業務終了を従業員たちに告げて、オフィスを離れる。

「今度は事務所荒らしかよ…」

漫画マネーの拳 1巻P181『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 そんな花岡に、経営者としてのさらなる災難が降りかかる。

 忘れ物に気付いてオフィスに戻った花岡だが、いざドアを開けると、真っ暗なオフィスから逃げ出す人影と遭遇する。泥棒だと思って羽交い締めにした人物も、元ホームレス従業員の西野浩樹だったのである。

「今度は事務所荒らしかよ、最悪だな」

 ホームレス雇用の難しさに愚痴をこぼす花岡だったが、あらためて西野に動機を問いただす。

 実は西野はもともと受託生産に特化した縫製工場の2代目経営者だった。だが資金が枯渇したことから、文字どおり工場から逃げ出して、ホームレスになったのだという。そうしている間に花岡に出会い、これを再生の機会だと信じて、履歴書を詐称して入社していたのだ。

 西野が抱える負債は1億円強。すでに1度手形の不渡りがあり、翌日にも600万円以上の支払いが必要だと訴える。ここで手形の支払いができなければ2度目の不渡りを起こすことになり、事実上の倒産となる。切羽詰まっての事務所荒らしだったという。

 借金の肩代わりはできないとして西野を帰した花岡。その工場に新規事業の可能性を見いだそうとしたが、「1億も負債のあるボロ工場を買っても将来性ねぇ」と自問自答を繰り返す。だが最後に、塚原に言われた言葉を思い出すのだった。

「起業家として必要な素質はなにか。それは一生衰えないカンとセンスだ」

 その言葉を思い出した花岡は、ある行動に出る。詳細はマンガで確認してほしい。

2度目の不渡りが事実上の「倒産」なワケ

漫画マネーの拳 1巻P182『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 西野が明かした「2度目の不渡り」とはどういうことか。マンガでは描き切れていない部分を補足しよう。

 手形とは、約束手形という有価証券のことだ。「期日までに決められた金額の支払いを約束する」性質を持っている。

 近いものに「支払い主が当座預金口座を持つ銀行が、一定の金額の支払いを約束する」有価証券もあり、こちらは小切手と呼ばれる。

 現金と比較して資金繰りの猶予が生まれる、ペナルティが明確なので信用取引に利用しやすい、現金輸送のリスクを回避できるといった理由で、おもに製造業や建設業などで使われてきた。

 当然ながら、手形を振り出した企業は、期日までに取引先に支払いをする必要がある。だが口座に残高がなかった場合など、期日に支払いができないことを「不渡り」という。

 1度不渡りを出した企業は、取引先からの信用が低下するだけではない。金融機関は不渡りの企業情報を届け出る必要があるため、今後の取引や融資が難しくなるケースがある。

 そして6カ月以内に2度目の不渡りを起こすと、金融機関から厳しいペナルティが科せられる。2年間の当座預金口座が利用できなくなり、融資も停止・引き上げされる。

 つまり2年間、現金取引しかできなくなるのだ。そもそも続けて不渡りを出している企業が現金だけでビジネスを継続するのは難しい。2度目の不渡りが事実上の倒産と上述したのは、この点にある。

 ちなみに手形自体は紙の証券だが、現在はその紙を画像データにして電子交換所で送受信するという、いわば「半電子化」の状態。すでに代替となる電子取引手段も増えており、その利用は年々減少している。政府としても2026年度末までに、手形の利用を廃止する方針を打ち出している。
 
 経営者としてのカンを信じて、新たな行動を起こす花岡。次回、物語は大きく進展し、初めての受注に成功する。はたしてどんな事業にチャレンジするのか。

漫画マネーの拳 1巻P183『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 1巻P184『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク