与えられることに慣れた子どもは、大人から手をかけられればかけられるほど、自分で考えて行動する力、つまり自律性を失っていきます。自律を失った人には、ある特徴が見られます。なにかうまくいかないことがあると、必ず人や環境のせいにするのです。子どもが当事者意識を失ってしまったら、どうなるのでしょう。そして、どうすれば当事者意識を取り戻せるのでしょうか。横浜創英中学・高等学校校長工藤勇一氏の新刊『考える。動く。自由になる。-15歳からの人生戦略』(実務教育出版)から一部抜粋・編集してお届けします。(横浜創英中学・高等学校校長 工藤勇一)
悩んでいる人みんなが元気になれる「魔法の問いかけ」
僕が以前校長を務めていた、東京都千代田区立麹町中学校でトライしてみたことを例に紹介します。
麹町中学校は、国会議事堂の近くという場所柄もあって、とても優秀な生徒が集まる学校というイメージを持たれています。実際、僕が校長として赴任した当時の麹町中にも、幼いころから期待され、習いごとや体験活動、そして学習塾などで手厚いサポートを受けながら育ってきた子どもたちがいました。
当然のように私立中学を受験したわけですから、公立の麹町中学に入学してくるということは、ほとんどが受験に失敗したということです。そんな新入生の中には、主体性も自信もなくしている子どもたちがたくさんいます。
わずか12歳の子が「自分なんかダメですよ……」なんて言うんです。強い劣等感を抱え、勉強へのやる気も見られず、親も先生も信用できなくなっている生徒もいます。「大人なんて、どうせ」がその子たちの口グセです。
反発心からなのか、問題行動を起こす生徒たちもいます。授業中も平気で歩きまわり、みんなの邪魔をします。友達に嫌がらせをします。ケンカだってしょっちゅうで、学校施設や備品などの破壊行為もめずらしくありませんでした。
そこで僕たち教員は「子どもたちが主体性を取り戻すためのリハビリ」が必要だと考え、その結果「生徒に押しつけのサービスをしない」ことを決めたのです。