極端な例ですが、夫のことを信頼できず、「夫が自分を裏切ろうとしている」と疑うと、「それなら私のほうが先に裏切ろう」と考えて行動をする人もいます。裏切られそうだから先に裏切る、という飛躍した行動に見えますが、これも自分を守るため。自分が傷つかないように防御するためであり、本人にとっては正当性があることなのです。職場も同じです。「この職場にいても私にとって不利なことばかり起きる。こんな職場は辞めてしまおう」と転職を繰り返すのです。

 言い方が厳しいかもしれませんが、人を信頼できなければ、相手や職場が変わっても、同じことが繰り返されるだけです。“自分を信じられて人を信じられる自分”に変わって初めて、周りも変わっていきます。

うつや不登校の原因になる場合も

 うつ病などの心の病の原因も、突き詰めれば「基本的信頼感」の欠如にあったりします。人を信頼して人に任せることができないと、人に甘えたり、頼ったりすることができません。そこで自分一人ですべてを抱え込んでしまいます。苦しい状態に追い込んでしまうのは、なんと自分自身なのです。人に頼ることができれば、自分を追い込まなくて済むことも多いのではないでしょうか。

 ひきこもりや学校の行きしぶりや不登校も、その根底には親子間での基本的信頼感の薄さだったり、家庭が安全基地になっていないことが原因だったりします。と言っても、親を責めているわけではありません。その子自身の気質も多分にありますが、基本的には、お子さんが学校へ行くエネルギーが足りなくなると、不登校やひきこもりになります。

 先ほどの防衛反応を思い出してください。親に言っても助けてもらえないからと、お子さんが頑張って頑張って、家での充電が足りなくなったとき、子どもは自分を守るために動かなくなるのです。

「つい子どもをガミガミ怒ってしまう」「子育てのイライラが止まらない」……私が今まで相談を受けてきたお母さんたちは、一人残らずお子さんを愛していました。子どものことを本当に愛しているのに怒ってしまう、怒ってはいけないと思っても感情的になってやめられず、後から罪悪感を抱えてしまう。そんな人は自分の育てられた環境で基本的信頼感を築くことができていなかっただけなのです。でも、それに気づくことで、自分自身とお子さんの「心の育て直し」をして、問題解決をすることができます。