中国人経営者に映る、日本でDXが進まない理由
外食、買い物、娯楽、コインランドリー……、キャッシュレス化の潜在マーケットは無限に広がる。最近はゲームセンターでも徐々にキャッシュレス化が進んでいるが、オンラインでつながっていないクレーンゲームをQRコード決済で動かすには、IoTデバイスを後付けする作業が必要だ。
このIoTデバイスを開発するのが飛天ジャパン(東京・中央区)だ。同社はオフライン機器をオンラインに対応させるための設備・機器を提供し、QRコード決済に移行させることで、集金や料金変更のわずらわしさやつり銭切れなど、従来のコイン式機器に潜在した課題を解決に導こうとしている。
日本市場でもモノに通信機能を持たせるIoT化が進んでいるとはいえ、そこには“新たなコスト問題”が立ちはだかっている。
飛天ジャパンの岑慕蘭(シン・ムーラン)取締役は「メーカー主導で開発した場合、開発コストや利益が上乗せされ、最終的な価格は数百万円に及ぶケースもある」と言い、「実際に市場が求めているのはそんなに“重たいもの”なのでしょうか」と問いかける。
同社ではコインランドリーの洗濯機に備え付けるIoT装置も手掛けているが、コインランドリーのオーナーが負担するコストは従来の予算のわずか10分の1で済むという。メーカー主導のIoT化のデメリットを克服した形だ。「ユーザーにとって過剰スペックだと、せっかく世の中に送り出しても受け入れてもらえない。その結果、DXも進まないという悪循環になってしまいます」とも語る。
では、中国でDXが進んだ理由は何なのか。岑氏によれば「実は中国にはDXなどない」という。「DXの権化のような国」なのに「DXがない」とはどういうことなのだろうか。
「そもそも、オンラインだとかオフラインだとかの話ではないんです。中国にあったのは、日常生活における利便性をユーザー目線で徹底的に追求したことです。その結果、自転車をはじめ傘やスマホの充電池のシェアリングなど、あらゆるサービスの出現を可能にしたのです」(岑氏)
中国はさながら大きな実験場だ。そこには厳しい目線でサービスを見極める消費者がいる。消費者にとって不要なサービスは淘汰され、生き残るのは存在意義のあるものだけ――。それが今の中国のDXを動かしているという。
私たち日本人はテクノロジーというものを何か特別なものとして見がちだ。しかし岑氏の話を聞いていると、中国ではテクノロジーを“雲の上の技術”として珍重しているわけではないことがわかる。むしろ、「みんなが参加し、競争と淘汰の中でテクノロジーが育てられている」という印象だ。
2004年に来日した岑氏は、2017年に内閣府の「アジア太平洋輝く女性の交流事業」において「架け橋女性」として選ばれた。今回取材した3人の経営者は、言ってみればみな「架け橋経営者」だ。
若い中国人経営者たちは日本の文化や習慣のみならず、日本企業の中国市場進出時の“教訓”も熟知している。「タイムマシン経営」を標榜しつつも、その目線は意外にもローアングルで、日本のユーザーに最適な利便性を提供するための「現地市場での最適化」を大事にしていた。