組織の大小にかかわらず、人を率いるリーダーの立場になれば、自らの「カリスマ性」が気になるところだろう。そして、それに自信がある人は少ないのではないか。「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏ですら、京セラを創業した20代の頃はカリスマ性のなさに悩んでいたようだ。そのときに稲盛氏が意識していたこととは?(イトモス研究所所長 小倉健一)
ボスから「カラスは白いよな?」
永田町では何と答えるべきか
かつて、筆者が雑誌の編集をしていた頃、内閣官房参与の飯島勲氏の連載を担当していた。飯島氏といえば、小泉純一郎元首相の首相秘書官であった。5年5カ月という長期政権を「官邸の番犬」として支えた。飯島氏から聞いた「永田町の言い伝え」の中に、こんな話があった。
ボス(上司、社長、議員)から「カラスは白いよな?」と事実とは違う事項について同意を求められたとき、部下(秘書)として、どう振る舞うのが正解なのか。
一般社会では正解だが、永田町の世界で絶対にやってはいけないのが「カラスは黒いですよ」と事実を伝えて押し返すことなのだという。特に、公衆の面前で議員のメンツをつぶすようなことをやっていては、議員のカリスマ性をなくしてしまうことになりかねない。そうなれば評判が落ち、選挙で落ち、自分も職を失ってしまうということだった。
できる秘書であれば「先生、その通りかもしれません」「白くも見えるときがありますね」など否定はしないものだという。さらに、永田町で生き残るには「そうです、カラスは真っ白です」と思い切って断言するぐらいの覚悟が必要なのだと、飯島氏は考えていたらしい。
そう思っていたら、小泉政権での首相外遊で随行したフィンランドのヘルシンキの街並みで、本当に「白いカラス」を見つけることができたという。フィンランドのカラスは雪に囲まれることが多いので、自分の身を隠すためには白い方が黒いよりも都合がいいというのがその理由のようだ。
それから、飯島氏のカラスにまつわるエピソードには、「本物の秘書は、実際に白いカラスを発見することだ」というエピソードが加わることになる(笑)。ボスにカリスマ性を持たせるために、知恵を絞るのが部下の務めということだろう。
以上のエピソードは、部下(秘書)の側から見たカリスマ性についてのエピソードでもあるが、自分が人の上に立つケースで、自分自身がカリスマ性を持つにはどうすればよいのだろうか。
実は、「経営の神様」と呼ばれたあの稲盛和夫氏であっても、京セラを創業した当初はカリスマ性のなさに悩んでいたようだ。そこで、カリスマ性に関する複数の研究結果をひもときながら、若き日の稲盛氏が自らのカリスマ性を担保するためにやったことをご紹介しよう。