世の中には、こうしたダークサイドをクリアしてプロダクトの価値をさらに高めている事例もたくさんあります。中でも私が素晴らしいと思うのは、2008年にAppleが「世界最薄のノートブック」としてMacBook Airを発売した際のスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションです。

 薄くて軽量なノートブックをプレゼンするため、壇上でジョブズが書類用の封筒を取り上げて中からMacBook Airを取りだすと、会場は大盛り上がりに。当時のノートパソコンは分厚かったため、封筒に入るということに、そこにいる全員がびっくりしたのです。このジョブズのパフォーマンスは、プロダクトがどれほど優秀かをわざわざ言葉にしなくても、見ているだけでその便益と独自性が伝わるものでした。言葉がいらないので、世界中の人にも伝わります。

 しかも、嘘や過剰なことはいっさいいっていません。非常に秀逸なプロダクトとそのコミュニケーションアイデアだったといえるでしょう。

理想はビジネスに関わる全員が
マーケティングをしていること

 マーケティングというのは、ひと言でいえば「継続的な価値づくり」です。お客さま(WHO)は誰で、そのお客さまが価値を見いだすプロダクト(WHAT)の便益と独自性は何か。この「WHOとWHATの組み合わせ」を見つけて実現し、それを拡大していくことがマーケティングのすべてだと。

 つまり、誰かのために、何らかの価値を生みだして提供する。

 考えてみれば、私たちの仕事はすべてこうしたマーケティング的な要素で成り立っているといえます。総務でも、経理でも、企画でも、法務でも、どの部門でも、誰かのために何らかの価値を生みだそうとしています。常にWHOとWHATがあり、そのための手法としてHOWがあるのです。

 ですから、営業部門やマーケティング部門以外でも、ビジネスに関わる人は全員マーケティングをしている、ととらえることもできます。

人間は誰かに何かを提供し、
価値をつくることで仕事をしている

 マーケティング担当者でなくても、価値とは何かを理解し、生みだし続けることが重要なのです。ビジネスに関わる全員がマーケティングを知っておいたほうがいいと私は考えています。

 これは、NPOなどの非営利団体の活動やボランティア活動でも同様です。

 善意でやっている活動でも、価値をつくるためには、求められているニーズに対して少なくとも提供できる便益があることが大事です。もしくは、相手の潜在的なニーズを汲み取って便益を提供し、その便益に対して「ありがたい。これからもぜひお願いしたい」と価値を見いだしてくれる人がいることです。そこに、対価としてお金をいただくのか、いただかないのかという違いがあるだけです。

 もしもそこで、誰かから「押しつけがましい」とか「迷惑」などと思われるとしたら、相手のニーズをきちんとつかめていないということでしょう。

 たとえば、ボランティアで近所のゴミ掃除をするのも価値を生みだしています。その場合のお客さま(WHO)は、そこを歩く人々や近所の住民たちです。プロダクトの便益と独自性(WHAT)は、「いつもはゴミが落ちて汚かったけれど、今日はゴミが落ちていないから気持ちがいいな」というのがそうです。その価値をつくりだすために行う、出勤前や通学前の掃除が(HOW)です。

 お金というかたちでの対価はありませんが、道をきれいにしたことによって、その道を利用する人たちの気分がよくなり、前向きな気持ちになったり、精神的に落ち着いたりします。あなたが掃除をしたことを誰かに気づいてもらえたら、「ありがとう」という言葉をかけてもらえるかもしれません。人から感謝されることで、自分は人の役に立っているという充実感を得られますから、感謝の言葉によって精神的な対価を分け与えてもらっていると考えることもできます。

 もちろん、こうした感じ方は人によって違いがあるため一概にはいえませんが、無償による行為であっても、基本的にWHOとWHATとHOWの構図は変わりません。どんなときも、WHOとWHATとHOWをきちんと分解してとらえることは、ビジネスやすべての活動にとって大切です。