「投資家との対話」新時代は近い!ESG経営に向けた3つの心得ESG経営では、企業価値の向上策をめぐる投資家との「対話」が重要となる(写真はイメージです) Photo:PIXTA

企業経営の足腰を鍛える
ステークホルダーとの対話

 本連載の第2回では、ESGはすぐれてプラグマティック(実利的)な経営課題であることを紹介した。また、ESG推進は短期的な株価上昇につながらないかもしれないが、資金調達、人材採用、国際取引、企業買収など取引の参加資格にとってのプロトコルであり、企業経営の足腰を鍛えるための有効なツールにもなり得ることを論じた。

 第3回は、なぜESGが企業経営の足腰を鍛えるツールになり得るのか、ステークホルダーとの「対話」を軸に考察したい。

 前提として、ここでいう対話とは、形式的に誰かと会いました、ということではない。企業から情報発信を行うと、「貴社のこの開示についてはどういう意味か」「貴社はこの課題にどうやって取り組むつもりなのか」などステークホルダーから様々な質問が寄せられる。そうした踏み込んだ質問をきっかけにして、企業価値の向上策を話し合うことを意味しており、エンゲージメントと呼ばれる。

 発信情報がESGに関係する場合、エンゲージメントの対象ステークホルダーは広くなる。社外では債権者、地域社会、NGOなどの市民組織も含まれるし、社内では従業員も重要なステークホルダーとなる。

 本稿では、上場企業と株主・投資家との対話を想定して議論を深めたい。

先進企業が投資家と
真剣勝負をする理由

 エンゲージメント先進企業では、質・量ともに充実したESG情報を開示する。決算説明会や株主総会とは別に、投資家向けのスモールミーティングやESG説明会も行うなど、発信方法も非常に丁寧だ。

 そして、トップもしくはそれに準ずる経営者が、自ら投資家とのミーティングに出席する。自社の経営に対する不満や改善点について、たとえ中には厳しいものがあったとしても、真摯に意見を聞く姿勢で対話に臨む。

 こうなると、エンゲージメントを依頼した側の投資家は、開示情報をしっかり読み込むなど相応の準備をして臨まざるを得ない。対話は必然的に真剣勝負になり、両者にとって意義深い時間になる。