未来を創造する
5つのアクション

ベストプラクティスを捨て「未来を創造する企業」が生き残る(前編)

――そうした流れのソート(思想)リーダーが5年前にインタビューしたスティーブン・ゴールドバッシュ氏(モニター デロイトのプリンシパル)と、ジェフ・タフ氏(デロイト・コンサルティングのプリンシパル)ですね。2018年に共著書『Detonate』(翻訳書『ベストプラクティスを吹き飛ばせ』、ファーストプレス)が発行され、大きな反響を呼びました。22年には2冊目の共著書『Provoke』が米国で、今年1月に翻訳書『望む未来を創り出せ』(ファーストプレス)が発行されました。Detonateは爆破する、Provokeは挑発するという意味で、衝撃的なタイトルです。

ベストプラクティスを捨て「未来を創造する企業」が生き残る(前編)

 日本企業は過去のベストプラクティスに固執していて駄目だという議論によくなりますが、この2冊が米国をはじめ世界で受け入れられたことが示唆しているのは、世界的にも過去のベストプラクティスへの固執が問題になっているということです。これを「爆破」しなければならないのは、日本企業だけのことではないのです。

 前著『Detonate』には、“禅”の考え方をベースに、変革には4つの原則があると記されています。活動の焦点を「人間行動」の理解と促進におき、全ての行動に「初心」で取り組み、「無常観」を取り入れ、「実用最小限の動き(Minimum Viable Moves=MVM)」を導入するべきだと、経営者に訴えています。

 このMVMの大切さについては、不確実性が支配する現状を真っ暗闇の森に例え、失敗を避ける最善の方法は、動かないことではなく、実用最小限で動いてみて、間違ったと判明したらすぐに方向を改められる動きを取りながら、前に進むことだと解説しています。真っ暗闇の森を大股で速く歩けばつまずいて転んでしまうが、動かなければ森を抜けることはできない。最善の方法は一歩一歩前に足を進めることだというわけです。

 一方、新著『Provoke』では、さらにその先に進み、「未来をProvokeせよ」と言っています。Provokeという単語は挑発と訳されますが、含意は、子どもが、自身が求めるものを得るためにわざと周囲に悪戯をして、その反応から相手の性格や感情を学ぶことであり、「不確実な状況においておおよその状況を掴み、理解できるようにする唯一の方法は、Provokeする、つまり行動をすることにより、市場(広い意味で言えば自分がビジネスをしている世界)の反応を見ることだ」と解説しています。

 すなわち、歩きながら予測された未来が来るのを待つのではなく、既に予測よりも未来が早くきていることを前提に、リスクやタブーに挑戦しながら、とにかく経営者自身が行動を起こすことで、「未来を創造せよ」というメッセージです。

――経営学者ピーター・ドラッカーの名言「未来を予言する最善の方法は、未来を作り出すことである」を思い出しました。『Provoke』では、企業の経営者に対して、より具体的な行動を提言していますね。

 Provokeをうまくやってビジネスを成功させ、未来を創造するには、(1)想像、(2)配置、(3)推進、(4)適応、(5)起動の5つのアクションがあります。時系列で、「もし」の時期と、「局面変化」の時期、「いつ」の時期かで、取るべきアクションが変わります(図表1参照)。

 まだ商品や市場がない「もし」の局面では、これからどのような未来が起こり得るのかを(1)想像し、起こり得る未来をうまく利用できるように自社の位置取り((2)配置)を行っておきます。(1)は調べたり空想したりアイデアを考えたり話し合うことです。(2)は人材を配置したり小さな予算で研究開発を進めることだったりします。

「局面変化」の時期が来たら、他者よりも早く、大きな予算を投じて、自らに有利となるような影響を直接的に生み出し((3)推進)、ビジネスモデルを予測される結果に(4)適応できるように調整します。優位性を生み出せるようにできるだけ迅速に。そして「いつ」の時期が来たら、エコシステムを通じて自らの望む結果につながる確率が最も高いネットワークや連鎖反応を(5)起動するのです。

 まさに直近では、ChatGPT、生成型AIがホットトピックになっていますが、それを念頭に、「もし」から「いつ」への局面変化と採るべきアクションについてイメージしてみるとよいでしょう。

(※後編に続きます)