太陽光発電所の始動式で握手を交わす京セラ創業者の稲盛和夫氏、京都市長の角川大作氏、SBエナジー株式会社代表取締役社長の孫正義氏京セラも参画した「ソフトバンク京都ソーラーパーク」の運転開始セレモニーに参加した稲盛和夫氏(左) Photo:AFP=JIJI

中国では「経営の神様・稲盛和夫氏は、中国の伝統的な寓話(ぐうわ)と同じようなことを言っている」といったコラムが人気を博している。稲盛哲学の中に、中国人が中国の伝統文化を感じるのは普通のことのようだ。そんな中国人が稲盛氏を高く評価するエピソードの一つに、稲盛氏が自宅に太陽光発電パネルを設置しなかった話が挙げられる。稲盛氏が創業者である京セラが当時販売していたのに、なぜだったのか。(イトモス研究所所長 小倉健一)

稲盛和夫氏が経営の神様になれたのは
「中国の伝統文化」のおかげ?

 日本、そして中国において「経営の神様」と呼ばれた京セラ創業者の稲盛和夫氏が8月24日に亡くなった。

 稲盛氏は日本だけでなく、特に中国の経営者からも強い尊敬の念を集めていた。とりわけ、中国の報道でも目立つのは、中国メディア光明日報(2022年8月31日)のような表現だ。それは、稲盛氏が「フォーチュン・グローバル500のうちの2社を創業した」ことに加えて、日本航空(JAL)が会社更生法を申請した際、「日本政府から無報酬でJALの社長兼CEO(最高経営責任者)に任命され、同社の再建を主導した」というような紹介だ。

 筆者もその見立てに賛同する。京セラ、KDDI(創業当時、第二電電)、そしてJALというまったく違う業種の会社を世界トップレベルの巨大企業に成長(JALは再建)させた実績は、世界を見渡しても稲盛氏以外に見当たらない。

 同じ業種から同じ業種への転身、もしくは近い業種を大きなビジネスに育て上げたという例ならいくらでも出てこよう。しかし、まったく分野の異なる三つの会社で大成功を収めたということは、人間離れした偉業という他ない。稲盛氏をもって「経営の神様」と呼ぶのは正しい呼称であろう。

 中国人経営者に、稲盛氏の経営哲学が受け入れられたのは他にも理由がある。

 中国家電メーカーの海信集団(ハイセンス)は、世界で売上高272億ドル(21年通期業績)を誇る巨大企業だ。そのハイセンスの総裁である賈少謙氏は、20年12月8日に中国・青島で開かれたイベントで次のように語った。

「中国企業はこれまで世界規模で競争力を持つ企業がなかったためか、経営者たちには自信があまりなく、欧米式経営から学ぼうとしてきた」

 そして「ハイセンスは、海外企業との競争の過程において、中国式の経営にも競争力があることが分かった」と指摘。その上で、「稲盛和夫氏が経営の神様になれたのは、彼が実践した経営が西洋の経営ではなく、完全に東洋の経営、つまり中国の伝統文化と現代の経営を融合させた中国の経営を用いたからだ。これは非常に興味深い現象だ」と述べた。

 日本人としては、「稲盛哲学と中国の伝統文化など関係がないだろ!」と、思わずツッコミを入れたくもなる。ただ、中国では「中国の伝統的な寓話にこんな話があるが、経営の神様・稲盛氏も同じようなことを言っているぞ」というようなコラムが人気を博している。稲盛哲学の中に、中国人経営者が中国の伝統文化を感じるのは普通のことのようだ。

 このように中国人が稲盛哲学に心酔していることを表す例はいくつも転がっているが、中でも印象的なのは、中国人コラムニストが稲盛氏にインタビューしたときのエピソードだ。京セラが当時販売していた太陽光発電パネルを自宅に設置しているか尋ねたところ、稲盛氏は「置いていない」と答えたという。その理由にその中国人インタビュアーは度肝を抜かれたのだ。