反面、発達障害のステレオタイプは、「キャラ」としては立っています。うまく居場所を見つけられ、本人が自意識をこじらせなければ、ASDキャラ、アスペキャラは愛される存在になり得ます。だからこそ、漫画やアニメなどのフィクションにおいては、こうしたキャラが広く受け容れられているのです。ただ、そうした愛なるものが、珍獣扱いのような差別、偏見を強化するタイプの愛である可能性については指摘しておく必要がありそうです。

 自傷的自己愛者(自己否定的な言葉を発しつつも、背景には自分への強い関心があることから、逆説的に自己愛が強いと思われる人々)もまた、このレッテルを自分自身に応用することがあります。つまり「自分がダメなのは発達障害のせいで、この病気は先天性の脳機能障害だから一生治ることはない。だから状況を変えるための努力はすべて無駄である」という理屈ですね。この理屈はもちろん間違いですし、この診断を持つ人すべてに対する偏見を強化してしまうという意味でも問題があるのですが。

陰謀論の蔓延には
“知的コンプレックス”も関与

 トランプ大統領の時代以降、世間には「フェイクニュース」「ポストトゥルース」といった言葉があふれました。それはトランプ政権に限った話ではありません。コロナ禍にしてもロシアによるウクライナ侵攻にしても、常識や科学に反した主張を確信し、堂々と展開してみせる人は少なくありません。彼らは批判を受けるどころか、同様の主張をする仲間と連帯し、一定数の支持者すら集めています。これはどういうことなのでしょうか。

 陰謀論にはまり込んで、そこから抜け出した経験がある人が語ってくれれば一番いいのですが、そういう人は決して多くありません。なにしろ陰謀論にはまったことがあるということ自体が恥ずかしいので、それについて語りたがらないのはむしろ当然のことでしょう。

 そんな中で、Twitter上で貴重な証言を見つけました。これは俳優で依存症当事者としても活動している高知東生氏によるものでした。以下にいくつか引用してみます。

2021-01-29 21:04:25
高知東生 @noborutakachi
 言うのがとても恥ずかしんだけど、俺陰謀論を信じかけてたんだよ。仲間と話していて「高知さんの情報はすごく偏ってます」って言われて驚いた。Youtube って自分の見ている関連動画が次々出てくるようになっているだってな。そんなこと全然知らなかったから教えて貰わなかったら本当にやばかった。
2021-01-31 23:33:57
高知東生 @noborutakachi
 俺は「人の裏を読め」を金言としていた。この度危うくyoutube の見過ぎで陰謀論を信じかけた事を内省したが、よく考えたら表の仕組みを何も知らないんだよ。そもそもの知識がないし、知る努力を面倒くさがってた。でもちゃんと調べなくても裏を読んだつもりになるって楽に賢そうな気分になれたんだよ

 これはなかなか勇気ある証言です。高知氏は自分を「知識がない」「賢くない」と卑下していますが、こうした筋道だった分析は、まぎれもないすぐれた知性の産物でしょう。

 これにつづく高知氏の論旨を私なりにまとめるとこうなります。

 ある種の人々は、単純で断定的な結論を言い切ってくれる人の話にひきつけられます。彼らの話はわかりやすい。専門家はいろいろな角度から複雑な議論を展開するため、わかりにくくて結論も曖昧だったりするので敬遠されることになります。

 自分の知性に自信がない人々は、YouTube やSNSに流れてくる、シンプルな「裏情報(本当は裏でも何でもないが、裏っぽく見える情報)」にひきつけられがちです。なぜか。裏情報は、「表の知識(一般常識、根拠のある情報)」のメタレベルだからです。つまり「表ではこんな風に言われているけれど、実は……」というロジックですね。苦労して表の知識を学ぶよりも、すぐに理解できるマイナーな知によってマウントが取れる快感がそこにあります。

 これは他人事ではありません。私も学生の頃に、ユングの「シンクロニシティ」とか「曼荼羅」とか、オカルティックな側面にハマりかけた経験があるからです。知的なコンプレックスを抱えていると、ウラの知識で一発逆転を狙いたくなる気持ちはまったく共感できます。「これで全部わかった!」という快感もまた、知性の働きではありますが、非常に危険な誘惑なのです。

「自分は裏の仕組みを全部知っている」という快感は個人的なものですが、これがコミニティとして共有されると、そこに「仲間として承認される」という快感が加わります。

 つまり「世界の裏の真実を共有している集団に帰属している」「その仲間とつながり承認されている」という快感ですね。これは単なる自己満足を超えた快楽をもたらしますので、抜け出すのがいっそう困難になります。高知氏は幸い、そうした集団には帰属していない段階で間違いに気付いたということなので、そこは幸運でした。

 ここにキャラの要素が加わるかどうかは未検証ですが、陰謀論のまん延においても「承認依存」が一役買っていることは間違いないと思います。