――40年以上前から防炎製品に取り組んでいるのですね。

田中 難燃紡績糸の生産や業務用卸をはじめ、織物のOEM生産にも対応するようになりました。また、2000年代に入ってからは個人向けの製品開発に乗り出しました。大手繊維メーカーなどと共同開発した寝具のシーツが防炎協会から認定を受けたのを機に、11年に分社化したのです。それ以降、さまざまな分野の防炎製品を少しずつ開発してきました。

――開発はスムーズにいったのですか?

田中 簡単ではありませんでした。防炎加工の方法の一つに、綿に薬剤を付ける方法があるのですが、実は人体に有害な薬剤が多いのです。身に着けるものには、そういう薬剤は使えません。また洗濯すると防炎性能が損なわれることもよくありました。それらの基準をクリアするのに苦心しましたが、自信を持って送り出せる製品が出来上がりました。

――高齢化が進むと、火の不始末も増えそうです。時代が求める製品ですね。

田中 現状は防炎製品の認知度が低く、必要だと感じてくれる方はまだまだ少数派です。アパレルの世界は低価格でファッション性の高いファストファッションが隆盛で、安全性を基準に洋服を選ぶお客さまはほとんどいません。しかし、防炎製品の存在を知っていただき、手軽に買えるようにすれば、「ファストファッションよりは少し高くても防炎製品を使いたい」というお客さまはいるはずです。

――どんな打ち手をお考えですか?

田中 まずはネットショップ「尾張防炎屋」を開設し、防炎製品を手軽に買える環境を整えました。しかし、防炎製品の重要性を伝える人が足りていません。

 そこで現在は、販売代理店と共に、防炎製品の意義をきちんと伝えてくれる個人の方を募集中です。目標は全国に200〜300拠点。1拠点につき、人口30万人程度のエリアをお任せしたいと考えています。社会貢献できる仕事だと思いますので、ぜひご協力いただきたいです。

繊維製品からの住宅火災ゼロを目指し「防炎」の衣料や寝具を開発・販売「moenca」「moenain」はネットショップ尾張防炎屋(ts-trading.net)で購入できる
●T・Sトレーディング株式会社 事業内容/難燃紡績糸の製造、寝具や衣料、インテリア繊維品など難燃性繊維製品の製造・販売、従業員数/4人、住所/愛知県一宮市花池3-13-15、電話/0586-43-0541、URL/t-s-trading.net

 その他のPRにも力を入れていく予定です。今回、いちい信用金庫さんのご紹介で、PRの機会を頂くことができました。ありがたい限りです。

――今後の抱負を教えてください。

田中 火事を防ぐ重要性は万国共通ですから、防炎製品は日本だけでなく世界でも求められるはずです。日本の高品質の防炎製品を海外にも広げて、世界の住宅火災を減らしていきたい。国内で生産すれば、日本の繊維産業の振興や技術継承にもつながるでしょう。

 防炎製品を広めることで、多くのハッピーをつくり出したいと考えています。

(取材・文/杉山直隆、「しんきん経営情報」2023年4月号掲載、協力/いちい中央信用金庫