焼いた表面はカリッ、かむと肉汁がジュワッとあふれ出す。「世界で一番お肉がおいしく焼ける」。掲げる大胆なキャッチフレーズにまごうことなく、肉のうま味を最大限に引き出すフライパンとして、2017年の発売以来、注文から3年待ちという記録も打ち立てた「おもいのフライパン」。手がけるのは、愛知県碧南市に位置する鋳物メーカー、石川鋳造だ。(取材・文/大沢玲子)
同社は1938年に創業。工作機械や水道関連部品、自動車向け自社製品、ロボット部品など、時代に合わせた鋳物製品を手がけてきたが、「リーマンショックの経験や、EV・ハイブリッド車へのシフトも見据え、08年、培ってきた鋳造技術を生かし、外的環境に左右されない自社製品の開発をスタートさせました」と同社4代目社長の石川鋼逸氏は振り返る。
そこで目を付けたのが肉の調理に特化したフライパンだ。鋳物は熱伝導率が高く、炭素を多く含み遠赤外線効果も高い。肉の調理にはうってつけの特性を持つ。
だが、「構想から10年、開発に3年かかりました」と石川氏が明かすように、さまざまな課題が浮上する。その一つが重さだ。肉をおいしく焼くには焼き面の一定の厚さが条件となるが、重くなるのが難点だ。「フライパンの厚さ、重さを感じにくく、使いやすい取っ手の角度や長さなど、社内で何度も協議を重ね、試作を繰り返しました」(石川氏)。
テフロン加工ではなく
無塗装で安全・安心を担保
さらにこだわったのが、安全・安心の担保だ。一般的なテフロン加工のフライパンは、経年劣化で剝がれた樹脂コーティングの人体への影響が懸念される。日頃から、「鋳肌がきれい」と定評のあった高い技術力を駆使し、難度の高い無塗装のフライパンを実現。こうして適度に“重い”ながらも使いやすい、おいしい肉を食べたいという消費者の“思い”にも応えるおもいのフライパンが誕生する。
さらに、22年には焼きの頂点を極めた、「宇宙一お肉がおいしく焼ける」を標ぼうする新ブランド「頂-ITADAKI-シリーズ」をリリース。鋳物だからこそできる、ランダムな波動の線を持つ焼き面を実現することで、食材の熱伝導を複雑にし、遠赤外線効果がさらにアップ。一般的なフライパンで焼いた場合と比較し、「肉のうま味成分であるイノシン酸が2.25倍、グルタミン酸は2倍残存するデータが明らかになっています」と語る。