もちろん、その背景には、バイキングスを絶対に失いたくないという市民・州民の思いがあった。ミネアポリスのような地方都市にとっては、先の理由からプロスポーツチームの位置づけは大きい。その中で、スーパーボウル制覇こそないものの、バイキングスはNFLの中でも名門チームであり、幾多の名選手を輩出してきた。失ってはいけない存在なのだ。また、ミネアポリスには、かつてNBAを代表する人気チーム、レイカーズに逃げられたという苦い記憶もあることも微妙に作用したであろう(レイカーズと言えばロサンゼルスというファンが圧倒的に多いだろうが、レイカーズ(湖畔の人々)という名前が示す通り、もともとは「1万湖の国」の異名を持つミネソタ州のチームである。ちなみに、ロサンゼルスには自然湖は存在しない)。

 ここでは両方ともスタジアム建設の事例を挙げたが、その他にも、移転を交渉材料に、さまざまな支援を引き出すのがアメリカ流であり、球団経営者もそれを当然と考えるようになってきているのである。

 ドライな経営者は、地元ファンの強い人気があっても、あえてビジネスを優先してフランチャイズを移転することがある。筆者個人的には、NFLの名門で地元でも人気を誇っていた旧クリーブランド・ブラウンズが1996年に移転を強行してボルチモアに移ったのが印象に残っている。ボルチモアはそれに先立つ十数年前、これまた名門のコルツをインディアナポリスに奪われてしまったわけだが、こうした「緩い椅子取りゲーム」は今後も続いていくのだろう。

ビジネスと地元自治体との交渉

 ここでビジネスと地元あるいは地元自治体との交渉について見ておこう。地元はあらゆる企業にとって重要なステークホルダーの1つである。とは言え、すべてのパターンを網羅することはできないので、ここでは類似性の高い製造業の工場をイメージして話をしよう。

 いわゆる“六重苦”(円高、高い法人税率、労働規制、貿易規制、環境規制、高い電気料金)に悩む日本の製造業にとって、その「苦」を緩和することは喫緊の課題である。早々に日本での生産を見きって海外移転した企業ももちろんあるが、通常、それは最初に出てくる案ではない。雇用責任もあるため、まずは様々な代替案も検討しつつ、地元自治体と何らかの交渉を行うのが普通である。

 それは補助金の場合もあれば、退職者の就職の斡旋、完全移転か部分移転かということもあるだろう。昨今であれば、ネーミングライツのようなものが交渉テーブルに上ってくるかもしれない。

 基本はWin-Winの関係を構築することである。Win-Winという言葉はすでに日本でも人口に膾炙(かいしゃ)した感があるが、言葉を変えて言えば、「自分にとって重要だが相手にとって重要ではないところでは譲ってもらって得をとり、逆に、自分にとっては重要でないが相手にとっては重要ではないところでは譲って相手に得をとらせる。これを繰り返すことで、お互いの便益を最大化すること」である。

 Win-Winの交渉で重要なのは、クリエイティブな「争点」を見出すことである。たとえば市庁舎の目立つ(たとえば新幹線から見える)外壁にその会社の広告を載せるなどは斬新な争点となりうる。あるいは退職者について言えば、通常はそのまま雇用か解雇かというオールオアナッシングの発想になりがちだが、ワークシェアリングを行うことで多数の雇用を維持しつつ、企業側も人件費を抑えることができるかもしれない。発想の制約を取り払い、自由度を高めて考えることが必要だ。