今年の春、TONA金利先物の上場が予定されている。わが国で金利先物の流動性が生まれれば、金融政策の変更に対応できるヘッジツールの提供、公正なターム物金利指標の算出、さらには金融機関の資本コストの低下などにもつながり得る。ただ、海外における金利先物では流動性が見られるが、わが国で同様の状況になるとは限らない。足元では、流動性を向上させるための取引所の努力も見られている。
売買に立脚したTONAを原資産とする先物の上場
筆者の印象では、2022年は円債市場において国債先物が最も話題になった年の一つだ。日本銀行が国債先物のチーペスト(最割安銘柄)である7年国債に指値オペを実施し、国債先物市場が大暴落したことも記憶に新しい。足元では、日銀が7年国債をほぼすべて保有することから、限月間スプレッドのボラティリティーがこれまでにない高まりを見せている。すでに7年から10年の国債の大部分を日銀が保有しており、今後も国債先物市場に新しい動きが見られる展開が続くと予想される。
こうしたなか、筆者が円金利のデリバティブの動向として注目しているのが、TONA金利先物の上場である。TONA金利先物とは、無担保コール翌日物金利(TONA=Tokyo OverNight Average rate)を原資産とする金利先物(短期金利のデリバティブ商品)であり、直感的には、短期金利(TONA)を予約する取引だといえる。TONA金利先物は、23年3月に東京金融取引所(TFX)から上場され、5月には日本取引所グループ(JPX)傘下の大阪取引所から上場が予定されている(それぞれTONAを3カ月間複利とした際の金利を原資産としている)。
長年、わが国の政策金利として用いられてきたTONAは、不正操作問題で公表停止となったLIBORの代替金利に採用されている。TONAの特徴は、無担保で1営業日貸し借りする短期金融市場において、実際に取引された金額と金利を用いて加重平均することで算出する点である。22年時点で、1日平均8兆円の売買がなされている。
このようにTONAが売買に立脚した指標であることが、LIBORの代替金利として採用された最大の理由である。LIBOR不正操作の本質的な原因は、LIBORが実際の売買に立脚せず、パネル行と呼ばれる大手銀行の提示するレートを用いて、いわば投票に基づき算出されていたことにある(注1)。