ドイツで受けた衝撃「自分の価値観に従い、やりたいことをやる」

――二度目の転職ではなく、なぜ独立・起業だったのでしょうか。

山下 実は、以前から「30歳までに独立しよう」と思っていたんです。転職を重ねてキャリアを積もうとは考えませんでした。仕事だけに偏ることなく、自分のための時間はもちろん、家族や友人たちと過ごす時間もしっかり確保したい。人生の時間の使い方は自分で決めて自由に生きていきたいと真剣に考えて決断しました。

――「時間の使い方は自分で決める」ことを最優先に考えた働き方が、独立・起業だったのですね。しかし、設立間もない企業の経営者は、寝食を忘れて働くイメージがあります。

山下 「起業」という言葉には、「奇抜なアイデア」「新しい価値や市場の創造」といったイメージがつきまといます。でも、顧客に提供するのは、必ずしも全く新しいことでなくていい。需要があれば、他の誰かがすでにやっていることでもいいのです。

 父の会社は、地方にある年商10億円の小さな会社です。「社長」といっても、どこにでもいそうな気のいいおやじです。もちろん、ここまで来るには苦労もあったと思いますが、「肩に力を入れなくても会社はできる」――父と一緒に仕事をしてそんなふうに思い、起業に対する心理的ハードルが下がったのは確かです。

藤本 大学3年で我究館に来た山下さんは、人一倍自己分析に没頭していましたね。企業面接の頃にはものすごく変わったという印象を持ちました。そのときに、働くことへの独自の価値観ができていったのでしょう。

山下 我究館に来たのは、ドイツの大学での交換留学から帰国した直後でした。その頃は漠然と、「就職するなら海外で仕事ができる業界がいいな」くらいに考えていました。でも、自己分析の過程で、ドイツで見たこと、考えたことを我究館の仲間の意見を聞きながら言葉にしていくうちに、次第に仕事や働き方へのイメージが明確になっていきました。

――留学での最も大きな発見は何でしたか。

山下 現地で今の私と同年代、30歳手前の「大学生」と友達になりました。彼らは、自分の関心ある分野を探しながら何度も専攻を変え、ずっと大学に通っています。州立大学はほとんど学費が無料という事情もありますが、日本なら「いつまで大学生をやっているんだ」と、周りから言われかねません。

 ドイツでは、大学で長期間学ぶ人にそうしたマイナスの評価はしない。それぞれの価値観に従って生きるのが当然、と考えている人が多いと感じました。そのとき、「自分も周りの評価や思惑に流されず、やりたいことを追求していこう!」と強く思ったのです。