金融不安抑制のための流動性供給は
インフレ抑制と齟齬を来す
高インフレは、財政インフレでなければ、利上げで抑えられる。金融システム不安は、中央銀行が流動性を大量供給すれば抑えられ、ソルベンシー(支払い余力)に問題がある場合は、厳格な資産査定と適切な引き当ての後に、政府が公的資金を投入すれば解決可能である。
ただし、高インフレと金融システム不安が同時に起きると、対応が齟齬を来す。グローバルインフレの下で生じた今回の金融システム問題は、どのような帰結をたどるのか。それが本稿のテーマである。
元々、預金を通じて短期資金を調達し、融資などの長期運用を行う銀行業が「取り付け」に直面しやすいのは、昨年、ノーベル経済学賞を受賞したダイヤモンドらの理論通りである。
その本源的な銀行業の不安定性を抑えるための発明が預金保険であったが、SNS時代においては、質の低い情報も拡散し、「取り付け」を引き起こすということか。
不確実性が低下するまでは、預金保護だけでなく、中央銀行も潤沢な流動性の供給を続けるとみられるが、問題は、そうした対応がインフレ抑制と齟齬を来すことである。
マクロ・プルーデンス(金融システム全体のリスクの把握を重視して安定を図る政策)と物価安定は別とはいっても、現実には、右手と左手で相反する行動を取ることになりかねない。
こうした齟齬がなぜ生じたのか。今後何をもたらすのかを次ページ以降検証していく。