金融不安のイメージPhoto:PIXTA

米SVBに端を発し、欧州大手クレディ・スイスをも破綻に至らせた金融不安。金融不安は経済現象というより、心理現象として一気に広がるだけに、当局は迅速に対応措置を講じる。しかし、いったんもたげた金融不安は容易には鎮まらず、景気、株式相場の下降サイクル入りを前倒しさせる恐れがある。もっとも、サイクル投資の基本を固守していれば、それはこうした場面の守りにも攻めにもなる。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)

ミンスキー・モーメントが
やってきた

 3月10日、米国ではSVB(シリコンバレー銀行)が破綻した。金融不安は、経済現象である以上に、心理現象として一気に広がり、深刻化する。不安が飛び火した欧州では、巨大名門銀行クレディ・スイスが事実上破綻し、UBSの救済買収という形で姿を消すに至った。

 金融不安の余波は簡単には消えない。そのことで、インフレ抑制と景気リスクをてんびんにかけ、利上げの加減を計って動いてきた株、債券、為替など市場の力学も変わろうとしている。

 事態はまさに急転直下した。ほんの1カ月前、米国では、景気は強いまま、インフレが下げ渋り、金利は一段高になるものの、恐らくは株式相場はしっかり、そんな楽観から「ノーランディング論」が浮上した。経済は、着陸しない、つまり飛行し続けるという見方である。

 筆者は、当欄でノーランディング論には賛同しない理由の解説をした。数カ月はノーランディングの様相で推移しても、その分だけ金利が高まれば、遅かれ早かれ景気悪化のリスクは高まるという見方だった。

 2023年最初の当欄では、市場の明暗を一転しかねない「ミンスキー・モーメント」(ミンスキーの瞬間、金融緩和時に生じた債務膨張や、過剰投資が限界に達し、その反動として資産価格急落や流動性の急低下などが始まるポイント)をテーマにした。

 経済的苦境に対する金融緩和が続くと、当初の目的であった救済措置を越えて、やがて低コストで安易に調達された資金が過剰投資や投機に使われるようになる。

 金融引き締め期にそれがうまく回らなくなり、相場急落や、金融破綻といった債務問題を招きかねないリスクとなる。

 経済学者ミンスキーが指摘したこの「瞬間」は、歴史的に何度も繰り返されてきた。コロナ禍対応の超ド級の金融緩和が、40年ぶりの高インフレを招き、加速的金融引き締めが進んでいる以上、この歴史的教訓を警戒するのが妥当と判断した。

 果たして、ミンスキー・モーメントは現実のものとなった。これによって、金融当局は、インフレ抑制を優先しつつ、景気悪化リスクを配慮し、利上げのさじ加減を模索する従来の目線に、金融不安という要素を加味しなければならなくなった。

 次ページ以降、金融不安の行方を検証しつつ、サイクル投資の基本に基づいた投資行動を紹介する。