リスキリングを成功させる
「デザイン組織」の特徴

 それでは、社員のリスキリングを生かしやすく、DXと相性の良い「デザイン組織」(※)の3つの特徴を、エアマルチプライヤーやサイクロン式掃除機などの革新的なプロダクトを生み続けているダイソンを例に、見ていこう。

※実践や実験を通し、インサイトを得たり、学習したりしながら、モノやサービスをつくっている組織

 同社は、デザインとエンジニアを統合した「デザインエンジニア」という職種を生み出すなど、モノづくりにデザインの考え方を強く取り入れているメーカーだ。大学を創設するなど、教育にも力を入れている。

特徴1:組織全体に共通するマインドセットを持っている

 ダイソンでは、プロダクトの納品とアイデアの検証を素早く実施するための、「デザイン・エンジニアリング」の指針を基盤としたマインドセットが存在する。

 例えば「失敗から学ぼう」だ。どうしても成功したプロダクトばかりに意識が行きがちだが、成功の裏には数千の失敗がある。ダイソン本社の通路には過去の失敗事例が詳細に展示されており、通るたびに失敗を恐れないマインドを思い出す。その他にも「口ではなく手を動かす」などがあり、こちらも後述するプログラムに組み込まれている。

 このように、組織全体で共通するマインドセットを持っていることが、デザイン組織のひとつ目の特徴である。もちろん組織によって最適なマインドセットは異なるが、組織の目的達成につながる考え方や捉え方を共通で持つことで、その後、社員は獲得したスキルをのびのびと発揮できるのだ。

特徴2:職種や役職という垣根を取り払ったコラボレーション

 ダイソンでは、プロダクト開発に関わるプロジェクトメンバーに対して、「デザイナー」と「エンジニア」といった区別がされておらず、全員が「エンジニア」として関わる。設定したテーマや問いに対して、職種や役職といった境界なしに、対等に意見やアイデアを出して、実験を繰り返していく。これが2つ目の特徴だ。エンジニアのみでは思いつかなかった発想や発見につながり、革新的なプロダクトが生まれやすくなる。

特徴3:マインドセットが浸透しやすく、コラボレーションしやすい環境や機会が用意されている

 3つ目の特徴は、前述したようなダイソンでは、仕切りのないオープンな空間や、議論しやすい空きスペースといった、コミュニケーションにおける障壁を取り除く環境を、意識して設けている。

 デザイン・製造・検証といったプロダクトに関わるチームと相談のしやすい席の配置や、役職によって場所を分けないなど、徹底して「コラボレーションを促す環境」を整えている。これが3つ目の特徴だ。

 また、ダイソンでは、物理的な環境だけではなく、事例の共有や、学び合うためのアイデアの共有、学んだことを実践で生かせるプログラムの機会など、マインドセットを浸透させるための環境も整えられている。このような「場」を整えることで、新しいスキルに触れ、伸ばし、生かすことが当たり前となる。もしこうした「場」がなければ、一時的なスキル獲得にとどまり、社員の能力を生かせずに社員の流出が起きてしまう可能性もある。常に学び続ける強い組織には、それを支える環境や機会を整えることが重要だ。

DXイノベーションは
座学だけで成功しない

 ここまで見ると、ダイソンは「実践」を非常に重視した組織であることがわかるだろう。「デザイン」という考え方は、とにかく実践ありき、実践なしに価値を生むことができない。DXやいわゆるイノベーションにおいても、似たことがいえる。座学だけで成功しないのだ。そして、「土壌づくり」を大事にする独自性のある組織こそが、企業や事業の優位性を生み出すことができる。

 リスキリングにおいても、外部の学習サービスやセミナー、ありきたりの施策だけに頼るだけではなく、事業上の目的と今の組織に目を向け、「実践を重視する組織をつくるにはどうするべきか」から考えてみてはどうだろうか。