「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】人への実用化が期待される、老けないための画期的な方法とは?Photo: Adobe Stock

老化細胞の除去は、様々な老化の症状を改善する

 前回は老化細胞について説明しました。老化細胞をでは、除去すれば、老化の症状が改善するのでしょうか? これについては、東京大学医科学研究所の中西真教授らの研究グループから、驚くような結果が報告されました。

 中西教授のグループは、老化細胞の新たな培養法を構築し、老化細胞の生存に必須な遺伝子として、グルタミン代謝に関与する「GLS-1(グルタミンをグルタミン酸に変換する酵素)」を同定しました。

 そして、老化を示すモデルマウスにGLS-1阻害剤を投与すると、老化細胞が除去され、肥満性糖尿病、動脈硬化、および非アルコール性肝障害(NASH)の症状が緩和されることを報告したのです。

 さらに、中西教授のグループは、老化細胞に「PD-L1(細胞の表面に存在するたんぱく質)」が発現することを発見し、老化マウスに「PD-L1」の働きを止める抗体を投与すると、老化細胞が約3分の1に減少し、握力が1.5倍程度になるなど、老化に伴う症状の改善を確認できたと報告しています。

 「PD-L1」に対する抗体は、がん免疫療法の薬「オプジーボ」として実用化され、京都大学の本庶佑特別教授が2018年ノーベル医学・生理学賞を受賞しています。

 つまり、老化細胞を除去すれば、正常の細胞は機能を取り戻し、老化がゆるやかになっていくことがわかってきました。

 もちろん、これはマウスでの実験の結果ですので、今後はヒトでの検証が必要になります。しかし、とても有望な結果と言えるでしょう。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。