医者やパイロットに比べ
ワンチャン成功するYouTuber

 この言葉が若い人たちの間に広まったのにはきっと理由があります。それは、いまが「偶然性の時代」だからです。グローバル資本主義の現在、私たちの足場はいままでになく不安定です。成長神話はすっかり過去の遺物で、将来に対して明るい展望を抱くことが難しくなっています。じゃあ、このやり場のない射幸心をいったいどうしたらいいの?そんな時代のリアリティの中で、「ワンチャン」という言葉が若い人たちの間で囁かれ始めたのです。

 かつての成長神話に経済成長という実質が伴っていたのと同じように、「ワンチャン」にもそれなりの実態があります。現代は自分の能力をマネタイズできる経路がかつてないほど増えていて、例えば、うちの教室でもつい先日、中3のMくんがウェブデザインのコンクールで数十万円の賞金をゲットしたばかりだし(すごいね!)、他にもユーチューバーとして収益化に成功して、親からもらう小遣いよりも多い月収を得ている高校生もいます。つまり、誰もがワンチャン狙える時代になったというわけです。

 このような、生まれた土地や環境、年齢や性別に関係なく、誰にでもチャンスがある状況をもたらしたのは、間違いなくデジタル化とインターネットの普及です。パソコンとネット環境さえ整えば、これまでハンディだと考えられていたことを飛び越えて、自分で自由に可能性を広げることができるなんてすごい時代だと思います。

 昨今の「小中学生がなりたい職業」のアンケート(新聞社主催)では、たびたびユーチューバーが首位になって、その結果を見た大人たちの多くが眉をひそめます。でも、努力に加えて恵まれた環境や才能が必要な医者やパイロットに比べると、ユーチューバーは誰でもワンチャン成功する可能性があるんですから、子どもにとってこれほど「夢がある」職業はないだろうと思うのです。

ワンチャンは
大人の嘘に対するカウンター

 誤解を恐れずに言えば、「ワンチャン」は新しい時代の価値観です。つまり、新しい時代の子どもたちは、意図しないうちに大人の嘘に反発しているんでしょう。そして、旧来の価値観を押しつけようとする大人に抵抗しているのでしょう。「ワンチャン」は大人のパターナリズム(この場合、大人が良かれと思って本人の意思を問うことなく子どもに干渉や援助を企てること)に対するレジスタンスになりえるんです。