書影『君は君の人生の主役になれ』『君は君の人生の主役になれ』(ちくまプリマー新書)
鳥羽和久 著

 ワンチャンも同じ原理で成り立っています。ワンチャンはワンチャンス(one chance)ですから、そう言ってるかぎり一つくらいアタリがあると信じることできますよね。でもそのガチャの中身があるって誰が決めたんですか?アタリが一つも入ってなかったらあなたはどうしますか?

 親ガチャだってそうですよ。親ガチャって「もっといい親のもとで生まれたら、私の人生違ったのに」という嘆きですよね。でも、そういう嘆きはボードレールの「どこだっていい!どこだっていいんだ!この世界の外でありさえすれば!」(N’importe où?! n’importe où?! pourvu que ce soit hors de ce monde!)という有名な言葉を引くまでもなく、あらゆる国のあらゆる人たちが抱いてきた幻想なんです。わたしはここではない別の場所に行きさえすれば、ワンチャン人生が良くなるに違いない。もしかしてあなたもそう思っていませんか。

 でも、残念ながら親にアタリはないんですよ。知ってましたか?確かに、圧倒的にダメな親がいるのは事実です。でも、それぞれの環境に違いはあるにせよ、アタリがあるなんて幻想ですから。まさか、金持ちの親に当たればアタリだと思ってますか。そんなわけないじゃないですか。親子の関係はお金があればいい、というような簡単なものではないんです。あなたがずっと幻想に浸ったままでいることはあなたの自由ですが、ガチャって慰み物だから、使いすぎには注意してくださいね。

 こんなふうにネガティブなことを書き連ねると、「ワンチャン」ってダメじゃんみたいになってしまいますが、そうじゃなくて、ワンチャンの手触りには確かに面白いものがあると私は思っています。ワンチャンを実感として知ってるあなたたちは、いまの大人にはない別の感覚を手にしているのですから。

オープンワールドゲームに
自由を感じるワケ

 現在のゲームの主流である仮想世界を自由に動き回るオープンワールドゲームは、空間がプレイヤーの行為を先回りすることを注意深く避けます。パターナリズムを排したその空間にあるのは、新たな行為を喚起する手がかりのみです。バイオームやモブ(マインクラフト)といった手がかりを通して行為と行為がつながり、やがてそれらが関係性を深め、今度はその関係から新たな機能が生じるゲームの世界では、ミッションのクリアよりも世界そのものの成熟が求められます。

 世界の成熟とはつまり、その世界の中で新たな「文化」が醸成され育まれることです。私は、オープンワールドに文化の雛形を発見したとき、いまの子どもたちはこんなに面白いものに夢中になってるんだ、こんなリアルな形で文化が育つ手ごたえを味わっているのかと、驚かずにはいられませんでした。

 かつて、みんなの親世代が遊んできた場所は、これとは性質が異なっていました。その場所では、そこで行われることがあらかじめ決まっていました。全国各地のテーマパークや遊園地もそう、ドラクエなどのRPGもそう。そこでは、決まった設定とストーリーに沿ってスリルを味わったりミッションをクリアしたりするのが目的だったわけです。でもいまのゲームは明らかに大きく変容しています。

 プレイヤーがオープンワールドゲームの世界に「自由」を感じるのは、そこが無既定の白紙の場所だからではありません。むしろ、既存のRPGと同等の明確な特性を持った世界がそこにあり、かつ、その世界の行動基準がキャンセルされているから「自由」を感じられるのです。

 でも、リアルな現実世界ではなかなかそうはいきません。なぜなら、手がかりを掴もうとする前に、あらゆる行動基準によってがんじがらめになってしまうからです。自由に動こうと思っても、周りがそれを許さない(と感じる)。その結果、どうしても与えられたミッションをクリアするようにしか生きることができなくなってしまいます。

 だから、現実世界で「自由」を手に入れるためには、現実の中でいかにパターナリズムな行動基準をキャンセルできるかがカギになります。