産学官連携プロジェクトで「共創」の力を育む
女子美術大学芸術学部産業デザイン科卒業後、東芝デザインセンターにてデザイナー、デザインディレクターとして家電、AV機器、ヘルスケアなど多くの商品・仕組みのデザインを手がける。
2012年に女子美術大学 デザイン・工芸学科 プロダクトデザイン教授に就任。地域や産学連携プロジェクトに多数取り組み、「こと・もの」のデザインで地域や企業の問題解決を実践する。
グッドデザイン賞審査員、日本インダストリアルデザイン協会 環境委員会会員などを歴任。グッドデザイン賞金賞、IF・red dot design award金賞など、国内外の受賞歴多数。
Photo by ASAMI MAKURA
――「共創型リーダー」とは、具体的にどのような人物像でしょうか。
多様な人が集まる場で、それぞれのいいところを引き出して、接着剤のようにつなぎ合わせられる人ですね。そうした力を育てるために、基本的なデザイン教育を土台にしつつ「産官学連携による実学」「共創教育」「ライフマネジメント教育」の3本柱を掲げています。
中心となるのが産学官連携です。学生たちは、4年間を通じて、パートナー企業や自治体と共にさまざまな連携プロジェクトに取り組みます。受け身の授業とは異なり、常に想定外のお題と格闘することになりますから、いや応なく応用力が育ちます。企業の営業部門などからシビアなフィードバックを受けてショックを受ける学生もいますが、そこから立ち直り、修正して、再提案して……という経験を通じてメンタルも鍛えられます。
――デザイン教育としてはかなりユニークですね。
そうですね。でも、目に見える美しさを作ることだけがデザインではありません。人と人とのつながり、人が集まる場のいい空気感など、目に見えないものを作ることもデザインです。「デザイン」という言葉を使うと、どうしてもそこが伝わりづらいのは悩ましいところで、最初は、学科名を「共創コミュニケーション学科」にすることも考えたんですが……。
――近年では、色や形を作る「狭義のデザイン」に対して、体験やサービスまで含むデザインを「広義のデザイン」と呼ぶことも増えています。
本学で学べるのは、まさに「広義のデザイン」です。ただ、「広義のデザイン」と言っても学生には伝わらないので、具体例を挙げて説明するようにしています。例えば、私がよく挙げる例が「おてらおやつクラブ」の活動です。全国のお寺に集まる「おそなえ」を、支援団体を通じて困窮家庭へお裾分けして、貧困の解消に寄与する仕組みです。企画者(代表理事)はお坊さんですが、ここでの役割は完全にサービスデザイナーです。既存の組織や人をつなぎ直して、新しい価値を生み出していく――。デザインに期待される新たな役割がよく分かる例だと思います。