プロ野球の阪神タイガース、千葉ロッテマリーンズで活躍、1939試合連続出場(プロ野球歴代2位)、遊撃手として667試合連続フルイニング出場(歴代1位)など数々の記録を残した鳥谷敬氏。突出した才能があったわけでもなく、しかし日本最高峰の舞台で試合に出続けられたのには、日々進歩するためのマインドがあったからだった。
データ至上主義のなかでも
大切な「経験値」
「40歳までショートにこだわる」ということを目標に掲げてきた。
2021年シーズン開幕戦において、わたしは39歳9カ月で「開幕スタメン」の座を勝ち取った。若いときからの目標だったので、このときはひとつの達成感を覚えたものだった。
40歳となっても守れるだけの体力と技術をキープする――。
この目標を掲げて、それを実現できたことは、ささやかな誇りでもある。実際に30歳を過ぎてからは守備範囲も狭くなっていたとは思う。しかし、それを超えるだけの経験が大きな武器となった。
自軍投手のピッチング内容、相手打者の打球傾向、試合のシチュエーションなどを考慮して、守備位置を1メートル変え、それが見事に的中すれば守備範囲の狭さは十分にカバーできるのだ。
わたしがプロ入りした頃は、野手の守備能力は数値化されていなかった。しかし、プロ野球人生の中盤以降はセイバーメトリクスの普及や、トラックマン、ラプソード、ホークアイなど、さまざまな計測機器の発展によって、守備力も数値化され、個々の選手の守備能力が可視化されることになった。
守備範囲や勝利への貢献度など、すべてが数字で評価されるようになったことで、ベンチとしてもありとあらゆるデータを取って、守備・走塁コーチから、守備位置に関して細かい指示が出されるようになった。
野球は常に進化しているのだ。
ただ、その一方ではどんどんデータ化されることによって、野球本来の魅力が損なわれているような寂しさも感じていた。
ベンチからの指示でポジショニングが決められてしまえば、選手たちが試合中に感じる「勘」や、ベテラン選手の「経験」は見向きもされなくなってしまう。
自分で考える必要がなくなり、ベンチからの指示を待つだけになれば、身体能力の高い選手が圧倒的に有利になる。頭を使うよりも、身体能力の高さだけで結果が決まってしまえば、野球の魅力は半減するのではないだろうか?