成功するには、「好きなもの」ではなく
「得意なもの」を選ぶ

鳥谷敬 著
こうした作業はプロに入ってからも続いた。
日本で3割、30本塁打を放っていた松井稼頭央さん、岩村明憲さんが、アメリカでは日本同様の成績を残せなかったのはどうしてだろう?
前述したように、守備に関しては日頃から土のグラウンドである甲子園球場でプレーしていたので、アメリカでも対応できる自信はあった。そうなると、ポイントとなるのはもちろんバッティングだ。元々ホームランバッターではないから、勝負するのはいかにアベレージを残すことができるかということになる。
さらに掘り下げていくと、自分の強みは守備と出塁率にあることに気がついた。といっても、「選球眼をよくする」ことよりも、いかにして「ボール球を振らないか」ということに意識を置くようにした。
「いいボールをきちんと打つ」のも大切だが、同時に「ボール球をしっかり見極める」ということに、より意識を強く持つようにしたのだ。
2014年オフ、FA(フリーエージェント)権を行使して、いくつかのメジャー球団と交渉をした。折り合いがつかず、結果的にわたしは生涯、日本のプロ野球でキャリアを終えることになるのだが、プロ入り時に描いていたイメージどおりに物事は進んだ。
その根底にあったのは、成功するには「好きなもの」ではなく「得意なもの」をという意識だった。
子どもの頃、サッカーではなく、野球を選んだこともそうだ。プロ入り時にほかのチームではなく、タイガースを選んだこともそうだ。そして、メジャー行きを意識して、長打力よりも出塁率を意識したこともそうだ。
自分のやりたいこと、自分のできることを考慮に入れたうえで、「好きなもの」ではなく、「得意なもの」で勝負する道を選んだのだ。
そして、この思いは現役を引退したいまでも変わっていない。
野球選手は現役でいるうちが華だ。自分はまだ引退直後だから、それなりに世間的なニーズがあるのだろう。けれども、これから毎年、続々とスター選手が引退していくなかで、メディア的な意味でのわたし自身の価値も失われていくことだろう。そうしたことを見据えたうえで、わたしはこれからのことをすでに意識している。「好きなもの」ではなく、「得意なもの」で勝負するのだ。