現役東大生が、「戦争」を切り口に、世界史の流れをわかりやすく解説した『東大生が教える 戦争超全史』が話題だ。世界史、現代情勢を理解するうえで超重要な戦争・反乱・革命・紛争を丁寧に解説した、教養にも受験にも効く一冊である。古代の戦争からウクライナ戦争まで、約140の戦争が掲載された、まさに「全史」と呼ぶにふさわしい教養書だ。今回は、本書の刊行を記念して、漫画家の三田紀房氏と、著者の東大生との特別対談をお届けする。

意外なところから発想を得た「アルキメデスの大戦」

東大生 本日はよろしくお願いいたします。三田先生とは、何度か別のところでお話しさせていただいていますが、今回もよろしくお願いいたします!

三田紀房さん(以下、三田) こちらこそ、よろしくお願いいたします。

「アルキメデスの大戦」から学ぶ、戦争が起きてしまう意外な理由三田紀房(みた のりふさ)
1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。代表作に『ドラゴン桜』『インベスターZ』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など。『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』、「グランドジャンプ」にて、『Dr.Eggs ドクターエッグス』を連載中。

東大生 このたび、私たち東大生が著者となり、『戦争超全史』という本を刊行いたしました。そこで今回、『アルキメデスの大戦』を描かれている三田先生に「戦争」をテーマにお話をうかがえればと思います。

三田 はい、なんでも聞いてください。

東大生 ありがとうございます。そもそも『アルキメデスの大戦』はどういうきっかけで生まれたのでしょうか? 三田先生がこれまで描かれてきた、スポーツや受験などのテーマとはまったく違うと思いますが。

 

 

「アルキメデスの大戦」から学ぶ、戦争が起きてしまう意外な理由太平洋戦争直前の日本で、超巨大戦艦「大和」の建造を阻止すべく、一人の天才数学者が立ち上がった―ー。『アルキメデスの大戦』(三田紀房著)

三田 この作品の連載スタートは2015年なのですが、ちょうどその頃、東京オリンピックに向けた国立競技場の建設反対運動があったんです。

東大生 国立競技場問題ですか。

三田 そうそう。それを見ていて、何か大きいモノをつくるときって揉めるんだな、と思ったんですよ。そのとき、ふと「戦艦大和」のことが頭をよぎって。大和の建設の際も、何かしらの反対や対立があったんじゃないかと思ったんです。

人の”感情”が戦争を引き起こす

東大生 それは面白いです。アルキメデスの大戦では、『最大級の戦艦!? そんなものを造ったら戦争が起きます!』というセリフが印象的でしたが、モノが戦争のきっかけとなるという視点が斬新だな、と思いました。

「アルキメデスの大戦」から学ぶ、戦争が起きてしまう意外な理由©三田紀房

三田 新しいモノができると、それを使って見たくなる。それが人間の性だと思います。

東大生 たしかに、「新しいモノや技術を戦争に使うとどうなるんだろう?」という“人の想い”が戦争を生み出すということって往々にしてあるように思います。第一次世界大戦でも新しい技術が大量に使われていました。

三田 そうなんです。戦争って地政学などが要因で起きると言われていますが、意外と人間の感情で起こっているケースも多いと感じています。

東大生 『ドラゴン桜』でもこういう描写がありましたよね。

「アルキメデスの大戦」から学ぶ、戦争が起きてしまう意外な理由©三田紀房/コルク
「アルキメデスの大戦」から学ぶ、戦争が起きてしまう意外な理由©三田紀房/コルク

三田 あ、ほんとだ(笑)以前、描いていたんですね。太平洋戦争でいえば、日米開戦を決断した東条英機は圧倒的な学歴コンプレックスがあったと言われています。彼は学習院初等科の受験に失敗し、陸軍大学も受験制限ギリギリで合格しているんです。このコンプレックスから生まれた自己顕示欲や劣等感を跳ねのけたいという想いが、彼を開戦に踏み切らせた1つの要因ではないかと考えています。

東大生 ヒトラーも美術学校の受験に失敗していますよね。

三田 そうなんです。挫折を跳ね返したいとか、あの国が気に食わないとか、そうした首脳陣の感情が戦争を引き起こすケースも多いと思います。

「感情」に目を向けると歴史の解像度が一気に上がる

東大生 「人間の感情を考える」というのは、歴史を学ぶうえでも非常に大切だと思います。「この人はどういう気持ちだったんだろう」「相手をどう思っていたんだろう」と、歴史上の重要人物の感情に目を向けると、一気に歴史がストーリーとして記憶に残りやすくなるんです。

三田 なるほど。たしかにそうですね。

東大生 こうした人の感情が顕著に表れているのが“戦争”だと思います。戦争は歴史上の重要なターニングポイントでもあるので、その意味でも戦争から歴史を振り返るのは、世界史を学ぶうえでとても大切だと感じています。

三田 まさに『戦争超全史』はそんな本ですよね。

【後編】に続く

東大カルペ・ディエム
現役の東大生集団。貧困家庭で週3日アルバイトをしながら合格した東大生や地方公立高校で東大模試1位になった東大生など、多くの「逆転合格」をした現役東大生が集い、全国複数の学校でワークショップや講演会を実施している。年間1000人以上の生徒に学習指導を行う。著書に『東大生が教える戦争超全史』(ダイヤモンド社)などがある。