国際的に見てなぜ現在の日本において、なぜスタートアップが育たないのか。これまでさまざまな視点で幾度となく語られてきた。今回、入山章栄・早稲田大学大学院経営管理研究科・早稲田大学ビジネススクール教授、加藤雅俊・関西学院大学経済学部教授・同アントレプレナーシップ研究センター長、清水和彦・フォースタートアップス取締役兼アクセラレーション本部長、牧兼充・早稲田大学ビジネススクール准教授の4氏が、大学教授や研究者の観点からこの問題について議論した。その内容を2回にわたりお届けする。後編では、未整備のスタートアップ関連の公的統計やスタートアップ関連の研究者と企業が連携する「日本モデル」構築について語ってもらった。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
>>前編『「日本は失敗のスピードが遅い」スタートアップ成長の課題を有識者4人が大激論』から読む
起業を目指す博士号を持つ
人材の層が薄い
牧 東大を中心とした起業のエコシステムはスタンフォードには勝てないですが、カリフォルニア大学などよりはスタートアップを生み出しています。
入山 カリフォルニア大学サンディエゴ校より上ですか。
牧 数と分野で言うとそうです。バークレー校並みだと思います。
清水 大学で教壇に立っていて、アントレプレナーシップ論やスタートアップ関連の講座に関心を持つ学生が増えている実感はありますか。
牧 人気が高く関心は上がっていると思います。ただ、実際に起業する人数が増えているかどうかわかりません。起業を目指す人材で博士号を持つ層がまだ薄いです。これまでは博士号を持つ人材が研究室に閉じこもりがちでした。
ただ、私が早稲田大学ビジネススクールで5年間ゼミを持っている間に博士号を持っている学生が6人いました。その中から起業する人材も複数出ています。流動性が上がっている実感はあります。
清水 岸田内閣が発表したスタートアップ育成5カ年計画の中に、博士号を目指す人への支援を拡充して、支援する博士課程学生の比率を従来の3倍、全体の7割程度まで引き上げるという項目があります。博士を増やすことが起業を増やすことにつながるのでしょうか。
牧 リスクを少し減らすことにはなりますが、インセンティブにはまったくならないでしょう。やはり、博士号を取った人が起業して成功している例がたくさん出てくる方がインセンティブになると思います。
研究者としては、統計やデータがなければ研究自体が進まない。次ページ以降では、日本における公的統計の未整備や米国で進んでいない研究者と企業との連携を軸とする「日本モデル」の構築について議論してもらった。