北朝鮮の核・ミサイルに対応する
「核の傘」の共有化を最重視
それにもかかわらず、このタイミングで冒頭の発言が出た背景には、尹錫悦大統領がバイデン大統領との首脳会談に先立ち、韓国外交の基調を明確にし、バイデン大統領の国際政治における立場を最大限支持することで、米韓の同盟関係を盤石なものにする意図があるものと考える。
尹錫悦大統領は昨年末に「平和のためには圧倒的な戦争準備が必要」と述べた。北朝鮮の核・ミサイルに対抗するため、軍事的には、監視・偵察・情報分析が重要な課題に浮上しており、「超高性能、高威圧の兵器を開発している」と明らかにした。
尹錫悦大統領が言及した超高性能・高威圧兵器は韓国軍当局の秘匿兵器と解釈される。軍当局は敵の上空で強力な電磁波を放出して装備を無力化させる電磁パルス(EMP)弾と高性能大型水中発射装置、怪物ミサイルと呼ばれる「玄武5」などを開発中である。そのことを述べたものであろうか。
それと同時に米韓同盟70周年に米国を国賓訪問し、首脳会談において、北朝鮮の核・ミサイル脅威に対応して「韓国型核の傘の文書化」「韓日米情報共有の拡大」などの課題の解決に全力を傾けている。
東亜日報によれば、「韓国型核の傘の共有化」に関連し、韓国の領土が北朝鮮などから核攻撃を受けた場合、米国が核で「報復対応する」という内容を明文化した共同文書を推進することが確認されたという。また、韓国の要請に応じて米国の核戦略兵器が朝鮮半島に展開するという趣旨の文書も共同文書に含まれるよう協議中だという。韓国の領土に戦術核兵器などを配備することはないが、韓国の必要に応じて米国の重要な戦略兵器が動けるように体系化することが狙いだ。
韓国の各種世論調査では、「韓国も核保有すべき」という声が7割近くに及ぶなど、核保有論議が盛んになっている。しかし、韓国自身が核を保有することには核拡散防止条約(NPT)体制の問題があり、またそれが北朝鮮への有効な抑止力となるかどうか、議論の余地がある。このため尹錫悦大統領自身は韓国の核保有について否定的な発言を行っている。
こうした点を勘案し、尹錫悦大統領としては、北朝鮮の核に対して、米国に確実に核で報復してもらうことを選択したものと解釈される。米国の核の傘共有化への前向きな対応を導き出すために、米国が今次会談で最も重視する対中政策への協力姿勢を鮮明にしている。