イオンは赤字要因縮小を
予想しているのではないか
そして3つ目はこれまでの赤字要因の縮小が確実に見込める場合です。イオンの食品スーパー部門が減益傾向にある中で、その赤字要因には変化が起きています。
イオンの食品スーパー部門の状況をシンプルにまとめると、客数は減少ないし停滞する中で、客単価が増加してその減少を補っています。そしてその客単価増加の武器になっているのが低価格のプライベートブランド(以下PB)である「トップバリュ」の売り上げです。直近では前年同期比で二桁も増加しています。
仮に客数の減少がコロナ禍での必然だったとすれば、そのマイナス要因はアフターコロナに突入する今年度以降、回復傾向になるでしょう。
値上げラッシュによって消費者の財布のひもが固くなるのは小売業全体で見ればマイナス要因ですが、低価格のPBを持つイオンではプラス要因になっている。つまり値上げが続いたせいで消費者はイオンを選ぶように状況が変わってきた。その最大の武器がトップバリュではないかということです。
これまで日本では消費者はプライべートブランドを一段低く見て、基本的にはナショナルブランドを好んで購入する傾向がありました。まだそのナショナルブランド信仰自体は揺らいではいないのですが、物価高騰が引き金となったことでプライベートブランドの売上比率は年々上昇しています。
小売業からみればプライベートブランドの方が当然利益率が高いため、このような変化も黒字増加につながります。プライベートブランドに関しては、コンビニ最大手のセブンイレブンが先行していて、売り場のかなりの部分をプライベートブランドが占めるようになってきています。それと同じ変化がイオンの売り場に起きると経営陣が確信すれば、規模の拡大戦略にゴーサインが出るようになるでしょう。これが3つ目の定石です。
そしてもうひとつ、これとは別の戦略定石があります。これら3つの要因がいずれ後からついてくるであろうと想定される場合にも、先物買いの形で困難に直面する中堅スーパーを先に経営統合していくのが正しい戦略です。
イオンの食品スーパー部門拡大戦略が、これらの戦略定石のどの部分に確信をもって進められているのかはイオン側が詳細に語ることはないでしょう。
しかし、日本の小売業は長らく非効率な構造が続いていたことから、欧米と比較してなかなか規模が大きくならないままここまで来ていました。
今回、イオンがまた頭一つ抜き出るところまできたということは、今回書いたような前提条件の変化を意味するのかもしれません。いよいよスーパーという日本の小売流通の本丸にも大きな変化が訪れそうです。