「夜ぐっすり眠れるようにするには、寝る前の5分の習慣が大切です!」と『健康になる技術 大全』の著者、林英恵さんは言います。今回は、「ぐっすり眠るためのエビデンス」についてです。
本連載では、「食事」「運動」「習慣」「ストレス」「睡眠」「感情」「認知」のテーマで、現在の最新のエビデンスに基づいた健康に関する情報を集め、最新の健康になるための技術をまとめていきます。(写真/榊智朗)
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
寝る前の5分でできる不眠をすっきり改善する方法
「春眠暁を覚えず」という言葉寝る前の5分でできる不眠をすっきり改善する方法が表すように、春の眠りは心地が良く、夜が明けても寝過ごしてしまうほどだといわれています。一方で、新年度が始まったことで環境が変わったり、花粉などのアレルギー、寒暖差が大きいことなどにより睡眠に乱れが生じやすいのも事実です。
夜ぐっすり眠れるようにするには、寝る前の5分の習慣が大切です。
心を落ち着ける「儀式」をしてみましょう
スムーズに眠りについたり、眠りの質をよくするために、心を落ち着ける「儀式」をしてみましょう。呼吸に焦点を当てた、「マインドフルネス」の瞑想が体も心もリラックスさせ、不眠を改善させることが高齢者を対象にした研究で明らかになっています(*1,2)。
関連して、呼吸に意識を向けることや、平和で落ち着いたイメージを思い浮かべることやマッサージは、リラクゼーションテクニック(リラックスするための技術)として、効果が明らかになっています(*3)。
寝る前のルーティーンが大切
また、寝る前のルーティンがあると良いことが報告されています。実際、乳幼児や子どもにおいては、寝る時間のルーティンがあると、様々な面で睡眠にとって良い影響があることがわかっています(*4-6)。
寝る前の日課としては、風呂に入る、パジャマに着替える、歯を磨く、本を読む、など一連の行動を毎日繰り返すことが重要です。
このようなルーティンの習慣を大人に当てはめることを推奨している研究もあります(*7)。
高齢者に寝る前のルーティンを作ることで不眠症に良い影響が
例えば、ゆったりとした落ち着いた音楽を聴く、温かいお風呂に入る、簡単なストレッチをする(あまり激しくすると刺激を与えてしまうので注意)、明るすぎないライトの下で読書をする、などです。高齢者に寝る前のルーティンを作ることで不眠症に良い影響があったことが報告されています(*8)。
毎日の習慣として繰り返し行うことで、どのような結果が表れるのか、今後の研究に期待したいところです。
【参考文献】
*1 Black DS, O'Reilly GA, Olmstead R, Breen EC, Irwin MR. Mindfulness meditation and improvement in sleep quality and daytime impairment among older adults with sleep disturbances: a randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2015;175(4):494-501.
*2 Corliss J. Mindfulness meditation helps fight insomnia, improves sleep. Boston, M.A.: Harvard Health Publishing; 2015. [cited 2021 Dec 17]. Available from: https://www.health.harvard.edu/blog/mindfulness-meditation-helps-fight-insomnia-improves-sleep-201502187726.
*3 Harvard Medical School. Positive psychology: harnessing the power of happiness, mindfulness, and inner strength. Boston, M.A.: Harvard Health Publications; 2016.
*4 Mindell JA, Telofski LS, Wiegand B, Kurtz ES. A nightly bedtime routine: impact on sleep in young children and maternal mood. Sleep. 2009;32(5):599-606.
*5 Mindell JA, Williamson AA. Benefits of a bedtime routine in young children: sleep, development, and beyond. Sleep Med Rev. 2018;40:93-108.
*6 Mindell JA, Li AM, Sadeh A, Kwon R, Goh DYT. Bedtime routines for young children: a dose-dependent association with sleep outcomes. Sleep. 2015;38(5):717-22.
*7 Markwald RR, Iftikhar I, Youngstedt SD. Behavioral strategies, including exercise, for addressing insomnia. ACSMs Health Fit J. 2018;22(2):23-9.
*8 Zisberg A, Gur-Yaish N, Shochat T. Contribution of routine to sleep quality in community elderly. Sleep. 2010;33(4):509-14.
(本原稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』から一部抜粋・修正して構成したものです)
パブリックヘルスストラテジスト・公衆衛生学者(行動科学・ヘルスコミュニケーション・社会疫学)、Down to Earth 株式会社代表取締役、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任准教授、東京大学・東京医科歯科大学非常勤講師
1979年千葉県生まれ。2004年早稲田大学社会科学部卒業、2006年ボストン大学教育大学院修士課程修了、2012年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程を経て、2016年同大学院社会行動科学部にて博士号取得(Doctor of Science:科学博士・同学部の博士号取得は日本人女性初)。専門は、行動科学・ヘルスコミュニケーション、および社会疫学。一人でも多くの人が与えられた寿命を幸せに全うできる社会を作ることが使命。様々な国で健康づくりに携わる中で、多くの人たちが、健康法は知っていても習慣づける方法を知らないため、やめたい悪習慣をたちきり、身につけたい健康法を実践することができないことを痛感する。長きにわたって頼りになる「健康習慣の身につけ方」を科学的に説いた日本人向けの本を書きたいと思い、『健康になる技術 大全」を執筆した。
2007年から2020年まで、外資系広告会社であるマッキャンヘルスで戦略プランナーとして本社ニューヨーク・ロンドン・東京にて勤務。ニューヨークでの勤務中に博士号を取得。東京ではパブリックヘルス部門を立ち上げ、マッキャンパブリックヘルス・アジアパシフィックディレクターとして勤務後、独立。2020年、Down to Earth(ダウン トゥー アース)株式会社を設立。社名は英語で「実践的な、親しみやすい」という意味で、学問と実践の世界を繋ぐことを意図している。現在は、国際機関や国、自治体、企業などに対し、健康に関する戦略・事業開発、コンサルティングを行い、学術研究なども行っている。加えて、個人の行動変容をサポートするためのライフスタイルブランドの設立準備中。2018年、アメリカのジョン・ロックフェラー3世が設立したアジアソサエティ(本部・ニューヨーク)が選ぶ、アジア太平洋地域のヤングリーダー“Asia 21 Young Leaders”に選出。また、2020年、アメリカのアイゼンハワー元大統領によるアイゼンハワー財団(本部・フィラデルフィア)が手がける、世界の女性リーダー“Global Women’s Leadership Fellow”に唯一の日本人として選ばれる。両組織において、現在もフェローとして国際的な活動を続ける。
『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(小学館)をプロデュース。著書に、『健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社)、『それでもあきらめない ハーバードが私に教えてくれたこと』(あさ出版)がある。
https://hanahayashi.com/