若者が夢も希望も見いだせず、国を出て行く現実

 筆者は20年近く韓国に住んでいる。その間、確かに生活水準は大きく向上し便利になった面もたくさんある。半面、社会全体に余裕がなく閉塞感が強まっていること、社会の中心となるべき若年層が明るい未来を描くことができずにいることがあると感じる。

 一つは就職だ。若者の就活は想像以上に厳しい。例えばアルバイトに応募する場合、「学歴、年齢、性別は関係なし」となっていても、実際には学歴や外見などで甲乙を付けられる傾向があるのは否めない。また、特に男性の場合は、若くて仕事を選ばなければ引く手あまたのように思えるが、実際には前述の「学歴」に加え「兵役」も条件に加えられていることがある。採用後に兵役でいなくなる社員の籍を約2年も会社に置いておく、兵役前に辞められるといったことを防ぎたい、と雇用側が考えるからである。

 二つ目は物価高や教育コストである。近年の世界的な物価高騰の波は、韓国をも直撃しており、これがさまざまな面で韓国社会に影響を及ぼしていることを感じる。少子化のニュースが出ると、コメント欄にはさまざまな意見が書かれるが、特に子育て世代からの声は切実だ。「教育にかかる負担を何とかしない限り、問題は解決しない」という意見が多い。

 日本では近年、首都圏を中心に中学受験が過熱し、「課金ゲーム」などと例えられているが、韓国でも子どもが小さい頃から教育費がかかる。韓国には中学、高校受験がないが、大学受験を視野に入れ、小学生の頃から複数の学院(塾)に子どもを通わせるからだ。以前の記事にも書いた通り(https://diamond.jp/articles/-/319638?page=4)、少子化による学生の減少で、既に地方では毎年のように大学の定員割れが問題化し、この先、廃校となる大学が続出する懸念もある。「選ばなければどこでも入れる」という「全入」状態なのに、それでも教育熱が下がらない理由は、学生たちの多くはソウル圏にある大学を目指すので、より競争が激化しているという背景があるのだ。

 そうやって苦労して入ったのに、「入学すること」「大卒という学歴を手に入れること」が目的となってしまっている人は多い。特に近年はコロナ禍の影響もあり、入学したはいいが、思い描いていた学生生活と違う、学ぶことの意味を見いだせない……などの理由で、休学や中退をしてしまう。卒業しても、学歴のプライドがあって就職先にこだわり、社会に出て働く機会を逃す……などなど、フラストレーションがたまり、社会に期待できないと感じる若者が増えているようだ。

 こうした韓国の状況を見ていると、心配になるのは母国である日本の将来だ。金銭的な支援も大切だが、それだけではその場しのぎにしかならない。結婚、出産、育児の根本的な環境を整え、若者が明るい未来を期待できる国にならない限り、少子化問題は解決しないのではないだろうか。もう何十年も前に少子化になると分かっていながら、中長期的な対策を怠っていた国の責任は重い。