日本は資本主義ではない
上下で構造が二つに分断

図1:日本経済の構造
(図1)日本経済の構造 拡大画像表示

(図1)はかつて本連載でも説明に使った記憶があるが、日本経済の構造が、権力や資力における「上半分」と「下半分」とでは、全く別の構造になっていることを表したものだ。

 上半分に関して言うと、そもそも大企業の正社員になるとクビにならないわが国は、労働力が商品として売り買いされるようなシステムを意味する資本主義に該当しない。企業の売買も不自由だ。こちら側は、「日本的縁故主義」とでも呼ぶのが最も似つかわしい。

 他方、下半分の、主に非正規労働者が相互に競争させられて賃金を抑えられている経済エリアは、かつて経済学者のカール・マルクスが「資本論」で叙述したような労働者を搾取する資本主義が、もっとひどく純化したものが存在する、「ブラック資本主義」とでも名付けてみたくなる世界が現存する。この世界に労働者としてはまり込むと、かつてマルクスが賃金水準の決定に想定した「明日の労働力たる子どもを育てるコストも含む労働力の再生産コスト」をはるかに下回る競争的な低賃金で働くことになる。

 この世界の中にいて、いわば「下から」日本経済を眺めると「マルクスはいまだに古びていない」という意見に共感する人が現れておかしくない。

 一方、上から日本経済をのぞき込むと、労働力も会社も十分売り買いされない、資本主義以前の世界が見える。「福祉社会」や、まして「新自由主義」など一体どこにあるのか。日本経済を「資本主義」としてくくって語ることが無意味に思える。

 ここまでは、「新しい資本主義」という言葉を聞いて最初に思った違和感だ。そう外れてはいまい。

 しかし、あらためて振り返って、「資本主義」という言葉を筆者自身も安易に使っているのではないかということが気になり始めた。